はじめに
てっきりこの重要な報告書についてどこかで書いていたと思い込んでいましたが、どうやら勘違いだったようなので、すでに20年近く経ってしまっていますが、現在の家庭医療の流れを作った報告書で、今日的な意義も高いので、改めてここにまとめておきます。 当時、新世紀(new millenium)を迎え、特に米国にありとあらゆる業界で、新世紀における自分たちのあり方、という議論や報告書が、多く出ていたことに背景があります。
エグゼクティブサマリー
2002年、米国の7つの主要な家庭医療機関のリーダーシップ(注)は、断片化した米国の医療制度における根本的な欠陥と、統合的かつ総合的なアプローチの可能性を認識し、「家庭医療の未来(Future of Family Medicine, FFM)」プロジェクトを開始した。本プロジェクトの目標は、変化する医療環境において患者のニーズに応えるため、家庭医療という専門分野を変革し、再生させるための戦略を策定することであった。
独立した調査会社による全国的な研究を通じて、患者、支払者、研修医、学生、家庭医、その他の臨床医を含む主要な関係者のための重要な課題が特定された。このデータに基づき、プロジェクトは家庭医療の中核的価値を再確認し、臨床実践、医学教育、そしてより広範な医療制度という3つの主要分野における変革を提唱した。
本プロジェクトが提唱する中心的な改革は、以下の特徴を持つ「家庭医療の新モデル」の実践である:
- 患者中心のチームアプローチ: 患者が自らの健康と医療に積極的に参加する。
- アクセスの障壁撤廃: オープンアクセススケジューリングや拡張された診療時間などを通じてアクセスを改善する。
- 高度な情報システム: 標準化された電子カルテ(EHR)を実践の中核に据える。
- 再設計された診療所: 変化する患者のニーズと革新的な業務プロセスに対応する。
- 質と成果への焦点: パフォーマンスを継続的に評価し、改善するシステムを導入する。
- 強化された診療所の財務: 運営効率の向上と新たな収益源を確保する。
さらに、この報告書は、すべての米国人が「パーソナル・メディカル・ホーム」を持つことの保証、質的指標の使用と報告の推進、基本的な医療サービスに対する保険適用の実現、プライマリケアを支える研究の推進、そして家庭医療の実践を持続可能にするための償還モデルの開発といった、制度全体の変革が必要であると結論付けている。本プロジェクトは、米国の家庭医療のリーダーシップが、他者とのパートナーシップを通じて、すべての米国人の健康と医療を改善するための変革プロセスにコミットしていることを示している。
注:7つの組織. 「家庭医療学の家族: THE “FAMILY” OF FAMILY MEDICINE」と呼ばれている。
- American Academy of Family Physicians(アメリカ家庭医学会,以下AAFP)
- American Academy of Family Physicians Foundation(アメリカ家庭医学会財団,AAFPF)
- American Board of Family Practice(アメリカ家庭医学認定理事会,ABFP)
- Association of Departments of Family Medicine(家庭医療学科連合会,ADFM)
- Association of Family Practice Residency Directors(家庭医療学レジデンシーディレクター連合会,AFPRD)
- North America Primary Care Research Group(北アメリカプライマリ・ケア研究グループ,NAPCRG)
- Society of Teachers of Family Medicine(家庭医療学教育者協会,以下STFM)
参考:
- 岡田 唯男. 特別寄稿①. KEYSTONE IIIーアメリカ家庭医療学の自己再発見への旅. Japanese Journal of Family Practice(家庭医療). Jul 15 2002;9(1):35-41.
- 岡田唯男.家庭医療学の家族(THE “FAMILY” OF FAMILY MEDICINE)Family Medicine Working Party(1979)①.プライマリ・ケア言始め − 今さら聞けないひととことば−プライマリ・ケア.2020;5(3):79.
- 岡田唯男.家庭医療の家族 (THE “FAMILY” OF FAMILY MEDICINE)
Family Medicine Working Party(1979)②. プライマリ・ケア言始め − 今さら聞けないひととことば−. プライマリ・ケア.2020;5(4):83.
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プロジェクトの背景と目的(結成された5つのタスクフォース)
20世紀末から21世紀初頭にかけて、米国の医療制度は深刻な問題に直面していた。少なくとも4,000万人が医療保険に未加入であり、公衆衛生インフラは脆弱で、医療は断片化されていた。医療過誤や医療費の急騰に対する懸念も高まっていた。
このような状況下で、家庭医は自らが患者と医療の間の「ゲートキーパー」として描かれ、患者との持続的なパートナーシップに基づくケアの統合ではなく、新たな管理層の出現によって大きな不満を抱えるようになった。医学部学生の家庭医療への関心も危機的な水準まで低下していた。
こうした背景から、家庭医の間に広がる不満、家庭医の役割に関する一般市民の混乱、そして米国の医療制度における不平等と非効率性に対処するため、7つの全米家庭医療機関のリーダーシップは2002年に「家庭医療の未来(FFM)」プロジェクトを発足させた。その目的は、変化する環境の中で人々と社会のニーズに応えるために、家庭医療という専門分野を変革し、再生させることであった。
プロジェクトは5つのタスクフォースを設置し、それぞれが以下の課題に取り組んだ:
- タスクフォース1: 患者の期待、中核的価値、再統合、家庭医療の新モデル
- タスクフォース2: 医師の養成に必要な医学教育
- タスクフォース3: キャリアを通じた継続的な自己・専門職・実践能力開発
- タスクフォース4: マーケティングとコミュニケーション戦略
- タスクフォース5: 将来の医療提供制度形成における家庭医療の役割
この報告書は、米国の家庭医療と医療を真剣に見直すための最初の一歩を刺激し、導くための試みである。
主要な調査結果
プロジェクトの初期段階として、独立した調査会社による全国的な質的・量的調査が実施された。この調査から、以下のような重要な知見が得られた。
- 認識の欠如: 一般市民は家庭医が何者で、何をするのかを十分に認識していない。特に、家庭医療と一般内科を明確に区別できていない。「family(家族)」や「practitioner(実践家)」という言葉が、科学的背景や能力の欠如を連想させ、混乱を招くことがあった。
- 患者が求めるもの: 患者がプライマリケア医に求める基本的な5つの基準は、「保険プランの適用」「便利な立地」「妥当な期間内での予約」「良好なコミュニケーションスキル」「十分な診療経験」であった。
- 関係性の重視: これらの基本基準を超えて、患者が最も価値を置くのは医師との関係性である。患者は、話を聞いてくれ、時間をかけて説明してくれ、ケア全体を効果的に調整してくれる医師を高く評価する。
- 包括的ケアへの懐疑: 一人の医師が幅広い健康問題に対応できるという「包括的ケア提供者」の概念には、ある程度の懐疑的な見方が存在する。これは、一人の医師が医学の全分野で最新の知識と能力を維持することは非現実的だという考えに基づいている。
- 家庭医への高評価: 家庭医は、「偏見がなく、理解があり、協力的」「正直で率直」「健康維持のパートナーとして行動する」「効果的に話を聞く」「患者の精神的・身体的健康に配慮する」といった、患者が特定した上位5つの関係性に関連する特性において、調査回答者の大多数から「素晴らしい」または「非常に良い」と評価された。
- 科学技術との乖離: 米国民は科学技術に魅了されており、医師にも技術に精通していることを期待している。しかし、一般市民は家庭医を科学技術と結びつけて考えていない。
- 質の前提: 患者は質の高い医療を期待しているが、医師を選ぶ際の基準として質を用いるのではなく、質は存在して当然のものと見なす傾向がある。患者は医療を関係性で判断するため、家庭医を高く評価する。このため、不十分なサービス面を許容することがある。
5つの主要な課題
これらの調査結果に基づき、家庭医療の将来的な存続可能性に影響を与える5つの主要な課題が特定された。
- 一般市民における家庭医療という専門についての広く、より正確な理解の促進
- 幅広い診療範囲と地域に適合した実践形態を強みとする専門分野における共通要素の特定(要は色々な場所で、色々な診療範囲の家庭医がいるが、その共通要素はなんだ?(裏付けとなる専門性とは?)
- 学術界における家庭医療へのリスペクトの獲得
- 家庭医療をより魅力的なキャリア選択肢にすること
- 家庭医療が科学技術にしっかりと根差していないという一般市民の認識への対処
FFMプロジェクトリーダーシップ委員会は、これらの課題に対処するためには、専門分野内だけでなく、より広範な医療制度においても変革が必要であると結論付けた。
家庭医療の新たな基盤:中核的価値とアイデンティティ
中核的価値
家庭医療の発展とそのアイデンティティは、家族と地域社会という文脈の中で提供される、継続的で、包括的で、思いやりのある、個人的なケアという中核的価値に根差している。これらの価値は、一般市民が現在家庭医に価値を見出し、信頼しているものの多くを担っている。家庭医は、科学的根拠に基づいた患者中心のケアを実践し、資源の適切な利用に責任を持ち、患者一人ひとりのケアの統合に焦点を当ててチームで働く必要がある。
5つの主要な特性とアイデンティティ
調査を通じて特定された家庭医の5つの主要な特性を以下の表に示す(本文table 3)
| 特性 | 説明 |
| 全人的な力学の深い理解 A deep understanding of the dynamics of the whole person | このアプローチにより、家庭医は人の健康に影響を与えるすべての要因を考慮する。ケアを断片化するのではなく統合し、病気の予防や問題、疾患、怪我のケアに人々を関与させるのに役立つ。 |
| 患者の人生への生成的影響 A generative impact on patients’ lives | この用語はエリック・エリクソンの人格発達に関する研究に由来する。家庭医は患者の誕生、成長、死に関与し、彼らの人生に変化をもたらしたいと願っている。病気を予防・治療するサービスを提供しながら、家庭医は個人の成長を促し、より良い健康と幸福感につながる可能性のある行動変容を支援する。 |
| 医療体験を人間味あふれるものにする才能 A talent for humanizing the health care experience | 家庭医が多くの患者と時間をかけて築く親密な関係は、人々とつながることを可能にする。患者と人間的な方法でつながるこの能力により、家庭医は複雑な医学的問題を患者が理解できる方法で説明することができる。家庭医は患者の文化や価値観を考慮し、彼らが最善のケアを受けられるよう支援する。 |
| 複雑さの自然な把握 A natural command of complexity | 家庭医は不確実性と複雑さに慣れている。彼らは包括的であり、健康と幸福につながるすべての要因(薬や処置だけでなく)を考慮するよう訓練されている。 |
| 多次元的なアクセシビリティへのコミットメント A commitment to multidimensional accessibility | 家庭医は患者やその家族、友人に物理的にアクセスしやすいだけでなく、ケアプロセスに関わるすべての人々とオープンで正直、共有的なコミュニケーションを維持することができる。 |
これらの特性と中核的価値に基づき、プロジェクトリーダーシップ委員会は家庭医のアイデンティティに関する以下の声明を採択した。
家庭医は、医療を人間味あふれるものにし、科学に基づいた質の高いケアを提供することで、全人的な健康を育み、医療を統合することにコミットしている。
Family physicians are committed to fostering health and integrating health care for the whole person by humanizing medicine and providing science-based high-quality care.
臨床実践の変革:家庭医療の「新モデル」
FFMプロジェクトは、米国の医療制度の欠点に対応し、家庭医療の将来を形作るために、「新モデル」と呼ばれる診療モデルの再設計を提案している。このモデルは、患者のニーズを中心に据え、産業工学や顧客サービスの新しい概念を取り入れた、一貫性のある包括的なケアアプローチである。
新モデルの診療所が持つべき特性を以下の表に示す(本文table 4)
| 特性 | 説明 |
| パーソナル・メディカル・ホーム | 診療所は各患者のパーソナル・メディカル・ホームとして機能し、継続的な関係を通じて包括的で統合されたケアへのアクセスを保証する。 |
| 患者中心のケア | 患者は自らの健康と医療に積極的に参加する。診療所は患者のニーズを満たすことの重要性を強調する、患者中心で関係指向の文化を持つ。 |
| チームアプローチ | 医療は個人ではなくシステムによって提供されるという理解に基づき、特定された集団に対してケアを提供し、継続的に改善するための多職種チームアプローチを意味する。 |
| アクセスの障壁撤廃 | オープンアクセススケジューリングの実施、診療時間の拡大、患者と診療所スタッフ間の便利なコミュニケーション手段の追加により、患者のアクセス障壁を可能な限り排除する。 |
| 高度な情報システム | 情報システムを利用してケアを提供・改善し、効果的な診療所管理を行い、患者とコミュニケーションを取り、他の診療所と連携し、地域社会の健康を監視する能力。標準化された電子カルテ(EHR)が診療所の中枢神経系を構成する。 |
| 再設計された診療所 | 診療所は、変化する患者のニーズと期待に応え、革新的な業務プロセスに対応し、患者と臨床医の利便性、快適性、効率性を確保するために再設計されるべきである。 |
| 全人的志向 | 診療所の枠を超えて、特定の患者集団の完全なニーズを満たすために不可欠なサービスや組織との協力的な連携を構築するなど、統合された全人的ケアへの目に見えるコミットメント。診療所は、単に調整するだけでなく、ケアを統合することで患者を医療制度全体を通して導く能力を持つ。 |
| 地域社会の文脈の中で提供されるケア | 文化的に配慮され、地域社会志向で、集団的な視点に焦点を当てる。 |
| 質と安全性への重点 | パフォーマンスと成果を継続的に評価し、質と安全性を高めるための適切な変更を実施するためのシステムが整備されている。 |
| 強化された診療所の財務 | 運営効率の向上と新たな収益源を通じて、診療所の利益率を改善する。 |
| 家庭医療のサービスバスケットを提供するコミットメント | 患者に家庭医療の全サービスバスケットを、直接または他の臨床医との確立された関係を通じて間接的に提供することへのコミットメント。 |
新モデルにおけるサービスバスケット(The Basket of Services in the New Model)
新モデルの診療所は、家庭医療が提供する全ての臨床サービス(サービスバスケット)を、自らの臨床医を通じて直接提供するか、診療所外の経験豊富な臨床医との確立された継続的な関係を通じて間接的に提供することを約束する。
| 家庭医療の新モデルにおけるサービスバスケット(本文table 5) |
| 子供と成人への医療提供 |
| 個人的な医療の統合(ケアの調整と促進) |
| 健康評価(健康とリスク状態の評価) |
| 疾病予防(無症状の疾患の早期発見) |
| 健康増進(一次予防と健康行動・生活習慣の改善) |
| 患者教育と自己管理の支援 |
| 急性期の傷害や疾患の診断と管理 |
| 慢性疾患の診断と管理 |
| 終末期ケアを含む支持療法 |
| 産科ケア、入院患者ケア |
| プライマリ精神保健ケア |
| 必要に応じたコンサルテーションと紹介サービス |
| 医療制度内での患者のためのアドボカシー |
| 質の改善と実践に基づく研究 |
従来モデルと新モデルの比較
以下の表は、従来の診療モデルと新モデルを比較したものである(本文table 6)
| 従来の診療モデル | 新モデルの診療モデル |
| システムがしばしば患者と医師の関係を妨げる | システムが継続的な治癒的関係を支援する |
| 男女両性、全年齢層にケアを提供。個人と家族のライフサイクルの全段階を含む | 男女両性、全年齢層にケアを提供。個人と家族のライフサイクルの全段階を継続的な治癒的関係の中で含む |
| 医師が中心 | 患者が中心 |
| 患者によるアクセスへの不必要な障壁 | 患者によるオープンアクセス |
| ケアは主に受動的 | ケアは応答的かつ予測的 |
| ケアはしばしば断片的 | ケアは統合されている |
| 紙のカルテ | 電子カルテ |
| 提供されるサービスのパッケージが予測不能 | 定義されたサービスバスケットを直接提供および/または調整することを約束 |
| 個々の患者志向 | 個人および地域社会志向 |
| 診療所とのコミュニケーションは同期的(対面または電話) | 診療所とのコミュニケーションは同期的および非同期的(Eメール、ウェブポータル、ボイスメール) |
| ケアの質と安全性は当然のものとされる | 質と安全性の継続的な測定と改善のためのプロセスが整備されている |
| 医師がケアの主要な源 | 多職種チームがケアの源 |
| 個々の医師と患者の診察 | 複数の患者と医療チームのメンバーが関与する個人およびグループ診察 |
| 知識を消費する | 実践に基づく研究を通じて新たな知識を生成する |
| 経験に基づく | 証拠に基づく |
| 行き当たりばったりの慢性疾患管理 | 意図的で組織化された慢性疾患管理 |
| 財政的に苦闘し、資本不足 | プラスの財務マージン、十分な資本 |
教育と継続的専門職開発の変革
後期臨床研修(レジデンシー)
新モデルを実践できる未来の家庭医を育成するためには、後期臨床研修(レジデンシー)の変革が不可欠である。研修は、証拠に基づく医療、最新技術、対人関係および行動科学スキルに根差したものでなければならない。研修プログラムは、卒業生がサービスバスケット全体を提供する資格と能力を有することを保証する必要がある。
FFMプロジェクトは、家庭医療レジデンシー教育のビジョンとミッションを次のように提言している:
- ビジョン: 家庭医療レジデンシー教育を、未来の家庭医が新モデルの実践の中で提供、刷新、機能し、米国民に可能な限り最高のケアを提供できるよう準備し、育成する、成果志向の経験へと変革すること。
- ミッション: 生物心理社会モデル、文化的能力、証拠に基づく実践、質の改善、情報科学、実践に基づく研究を強調し、患者中心のケアを一貫して提供し、多職種チームを率いる家庭医を養成する柔軟なモデルを創造すること。
研修プログラムは、以下のガイドラインを指針とすべきである(本文table 7)
| ガイドライン | 説明 |
| 柔軟性/応答性 | 地域やコミュニティのニーズに応えるために必要な分野での教育を提供する能力 |
| 革新/積極的な実験 | 4年間のカリキュラム試行プログラムを含む新しい教育方法を試み、証拠に基づく医学知識の最先端を教えることを奨励 |
| 一貫性/信頼性 | 米国医学研究所が明確にした医療システムの価値観を体現する家庭医を育成し、基本的な知識の中核を提供する |
| 学習者のニーズと彼らが奉仕する予定のコミュニティのニーズに個別化 | 産科ケア、整形外科、救急医療など、卒業生が必要とする分野で強化された教育機会を提供する |
| 批判的思考の支援 | 研究を奨励および/または要求し、証拠に基づく医療実践の徹底的な理解を期待する |
| 能力ベースの教育 Competency-based education | 能力評価に基づいた研修医のパフォーマンス評価の新しいパラダイムを強調する |
| 学術および実践ベースの学習 | 継続的な診療環境での患者ケア活動を中心に構築された分析と介入を通じて、学術と質の改善を統合する |
| 証拠に基づく知識と患者中心の知識の統合 | 患者ケアの場で両方の視点からの知識獲得と処理をモデル化する |
| 医療情報科学 | 電子カルテ(EHR)の使用にとどまらず、最先端の情報科学リソース内で広範な取得、処理、文書化の可能性をモデル化する |
| 生物心理社会的統合 | 心血管系、個人、家族、地域社会、またはより大きな社会的文脈など、システムの異なるレベル間の相互依存と相互作用を強調する |
| プロフェッショナリズム | 研修医の重要な発達期に、総合的なモニタリングとフィードバックシステムへと移行する |
| すべての学習における協力的かつ学際的なアプローチ | チームの効果的な使用と患者ケアへの学際的アプローチのための支援とロールモデルを提供する |
継続的な生涯学習
従来の継続的医学教育(CME)モデルは、現代のニーズを満たすには不十分である。FFMプロジェクトは、継続的な自己、専門職、臨床実践の評価と改善に基づく、各家庭医のための包括的な生涯学習プログラムの開発を提唱している。このプログラムは、個々の医師と診療グループを対象とした自己評価および学習モジュールを含み、改善された患者の成果を促進する教育的介入に科学的根拠に基づく知識を組み込む。
米国医療制度の変革に向けた6つの戦略的優先事項
家庭医療の変革だけでは不十分であり、米国の医療制度全体の変革が必要である。FFMプロジェクトは、以下の6つの戦略的優先事項を特定した。
- すべての米国人がパーソナル・メディカル・ホームを持つことを保証するための措置を講じること: 個人の医療の焦点として機能し、アクセス可能で、説明責任があり、包括的で、統合され、患者中心のケアを提供する拠点。
- すべての米国人が基本的な医療サービスと、莫大な医療費に対する保障を受けられるよう提唱すること: 米国における医療保険未加入の問題は、もはや許容されるべきではない。
- パフォーマンスとサービスを向上させるための質的指標の使用と報告を促進すること: 家庭医療は、IOMが掲げる高品質な医療の6つの目標(安全、適時、効果的、公平、患者中心、効率的)それぞれについて、少なくとも1つの指標のパフォーマンスを報告し始めるべきである。
- 家庭医や他のプライマリケア臨床医の臨床的意思決定を支援する研究を推進すること: プライマリケア研究への連邦政府の資金提供の格差を是正し、全人的なプライマリケア研究を支援するための国家的な組織を設立する必要がある。
- 家庭医療とプライマリケアの実践を持続させるための診療報酬支払いモデルを開発すること: 現在のプライマリケア診療所の償還システムは持続不可能であり、新モデルの実現に必要なタスクを遂行するには不十分である。
- 米国の医療制度の変革を支援するために家庭医療のリーダーシップを発揮すること: 家庭医療内でリーダーを育成し、プライマリケアの統一された声を形成し、政策立案者と協力して制度改革を推進する。
勧告:行動への10の推奨
FFMプロジェクトは、家庭医療がそのアイデンティティに忠実であり続け、患者と社会のニーズに応え続けるために、以下の10項目の勧告を提示している。
- 家庭医療の新モデル: 関係性を中心とした「パーソナル・メディカル・ホーム」の概念に基づき、家庭医の業務と職場を再設計する。
- 電子カルテ: 家庭医療の新モデルをサポートする基準を満たす電子カルテを導入する。
- 家庭医療教育: 新モデルの中で家庭医療のサービスバスケットを提供することに長け、卓越性にコミットする家庭医を養成する。
- 生涯学習: 各家庭医が継続的な自己、専門職、臨床実践の評価と改善計画を作成するためのツールを提供する、包括的な生涯学習プログラムを開発する。
- 家庭医療の科学性の向上: 新しい知識の生成への参加をすべての家庭医の活動に不可欠なものとし、実践に基づく研究を家庭医療の診療に統合する。
- ケアの質: IOMの質の目標に対処するため、学術界、地域、その他のパートナーとの緊密な協力関係を構築し、6つの質の目標に関するパフォーマンスを測定・報告する。
- 学術医療センター(大学病院など)における家庭医療の役割: 学術医療センター内での家庭医療の立場を分析し、その貢献を高めるための措置を講じる。
- 十分な家庭医療労働力の促進: 多様な文化を持つ家庭医の労働力を募集・養成するための包括的なキャリア開発プログラムを実施する。
- コミュニケーション: 家庭医療の新モデルとパーソナル・メディカル・ホームの概念の認識と理解を促進するための統一されたコミュニケーション戦略を策定する。この戦略の一環として、我々の専門領域についての用語の使用を一貫して、family practiceの代わりにfamily medicine, family practitionerの代わりにfamily physicianの使用を確立する。
- リーダーシップとアドボカシー: 家庭医療とプライマリケアのためのリーダーシップセンターを設立し、すべての米国人が基本的な医療サービスにアクセスできることを保証するなど、主要な政策イニシアチブを推進する。
コメント(本プロジェクトの意義)
全部重要なので、できれば全部読んでもらいたいところですが、本報告書(およびプロジェクト)の意義を私が挙げるとすると
- 当時の米国家庭医療がおかれている状況を適切に認識するために、うちわだけでなく、患者、支払者、研修医、学生、家庭医、その他の専門分野の医師など幅広く意見を求めた。
- その結果、家庭医の仕事がよくわかっていない(一般内科との区別がされていない)、“family” 、 “practitioner” という言葉の両方が一部の人にとって、科学的根拠の乏しさと、能力の低さのイメージと結びついていることがわかった
- 5つの主要な課題が同定された(これらは現代の日本においてもそのまま通用する(悲))
その結果、実際に行動に移されたこととして、以下の5つを挙げておきたいと思います。
業界の名称が正式に統一、変更された
最終報告の 10 推奨のうち第 9(Communications)は、一貫した専門用語の使用を求め、family medicine / family physician への統一を含んでいた、ということから、family practice → family medicine, family practitioner → family physician という名称変更が、2003年の家庭医療学会の代議員総会?的な会議(AAFP Congress of Delegates )において、公式に専門領域名の変更に賛成票を投じたと明記し、これをもって米国専門領域としての名称「family medicine」に統一する決定がなされたと位置づけています。その結果、family practice residency → family medicine resiencyへ、 AFPRD→AFMRD(2004 年)、ABFP→ABFM(2005 年)など、主要団体が順次名称を family medicine ベースに改めた。
とにかく’practice’という言葉が「実践」ではあるものの、「練習」という意味もあること、整備工、技師、のような科学とは結びつかない、技術者というイメージにつながっていることを嫌ったのだと思います。
研究のトップジャーナルが創設されて、戦略的にレベルが一気に上げられた
当時ちょうど、持続困難となった、Archives of Family Medicine (JAMA発行者のAmerican Medical Association発行、1992 年 9 月創刊も、Vol.9 No.10(Nov/Dec 2000)で休刊・終刊と、10年続かなかったこともあったと思います。また、前述の通り、家庭医療が科学的な裏付けとかけ離れたというイメージの払拭が切実な課題でした。
その結果、前述の6つの団体(AAFPFを除く家庭医の家族)2つ目の共同プロジェクトとして(1つ目は本FFMプロジェクト)、Annals of Family Medicineという学術誌を共同設立し、
その3年後には、British Journal of General Practiceにはるかに差をつけて、業界のトップジャーナル(インパクトファクターの観点から)に躍り出たのです。
Del Mar CB, Magin PJ, van Driel ML, De Maeseneer J, Furler J. Journal impact factor and its importance for AFP. Aust Fam Physician. 2008;37(9):770–773
に、2006年の時点で Annals of Family Medicine: 3.803、British Journal of General Practice: 1.938の記載があります。(table 3)
生涯学習誌の執筆方針がよりEvidence Basdに統一された
因果関係を明示的に書いた一次文献は確認できないものの、FFMのプロジェクトとほぼ同時期に、Strength of Recommendation Taxonomy (SORT) と呼ばれる、家庭医療関連実践誌の全てで、統一したエビデンスレベルの表記の様式が提案され、今もそれが踏襲されています。
診療報酬制度、システムの後ろ盾が重要であることが改めて示された
このことについての主張はこのプロジェクトが初めてではありませんが、「The current reimbursement system for primary care practices is not sustainable. 」「利益がなければ、使命も果たせない(no margin, no mission)」」とあり、10の推奨の、1、2、10あたりにそのニュアンスが含まれていますし、明確に、「米国医療制度の変革に向けた6つの戦略的優先事項」として詳細に推奨がなされています。
家庭医の重要な属性として「医療体験を人間味あふれるものにする才能」が5つのうちの1つに含められた(個人的イチオシ)
医療体験を人間味あふれるものにする才能:A talent for humanizing the health care experience という表現がこの報告書に含まれているのを初めて見た時は震えました。対義語は「非人間的な」ということです。特に大病院や領域別専門診療科での受療体験は自分が流れ作業のベルトコンベアに乗せられた「物」のように、流れ作業の一部として扱われがちです。医療のそういった特性、傾向を打ち消すことが才能だ、と明示的に胸を張って言えるのは我々の業界だけではないかと思うのです。
出典
ここまで


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