プライマリ・ケア医は世界中で危機的に不足している

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はじめに

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Lawson E. The Global Primary Care Crisis. Br J Gen Pract. 2022 Dec 21;73(726):3.

論文の位置づけと概要

  • 対象論文は、英国 BJGP に掲載された編集長によるエディトリアル “The Global Primary Care Crisis”。いわゆる原著論文ではなく、複数の国際データや論考を束ねて、「一次医療をめぐる世界的危機」を論じる立場の文章である。
  • 根拠となるデータがいくつか出されていますが、出典が提示されていないので、こちらで探してつけています。

なぜ「世界的」クライシスなのか

  • 高所得国10カ国(日本は当然含まれていません)すべてで、プライマリ・ケア医が「仕事量の増加」「高ストレス」「バーンアウト」を強く訴えていることが、コモンウェルスファンドの2022年国際調査で示された。​(1)
  • 英国やドイツでは、9割以上のプライマリ・ケア医が「仕事量が増えた」と回答し、高齢医師の約半数が「3年以内に診療をやめる意向」を持つなど、複数国でほぼ同時に同質の危機が起きている。
  • ​そもそもこの調査のタイトルに、「The Global Primary Care Crisis」が含まれている。

Lawson はこれを「特定の国や制度の問題」ではなく、プライマリ・ケアという仕組みそのものに対する世界規模のプレッシャーとして描き出している。

人的リソース不足と「取り合い」の構造

  • 2020年時点で世界には約1億400万人のヘルスワーカーと1,280万人の医師しかおらず、人口1万人あたり医師は16.7人という推計がなされている。(2)
  • 一方で医師は都市部や富裕層向けに偏在しており、英国のように1万人あたり35.1人の医師がいても、プライマリ・ケアに十分な人材をまわせていない現実がある。

その結果、各国は限られた医師を国際的に「奪い合う」ような状況になり、特に英国のようにEU域外となった国では国外からの補充も難しくなっていると指摘される。(これは、2025のWorld WONCA in リスボンの基調講演でも話されていました。またの機会に)

若手まで巻き込む「持続性」の危機

  • コモンウェルスファンド調査(1)によれば、英国では若手GPの約4分の3が仕事を「非常に/極めてストレスフル」と感じ、5人に1人が3年以内に臨床を離れる意向を持っている。
  • 高齢GPでは3分の2が早期引退を考えているとのデータも紹介され、ベテランと若手の双方が離脱を考えているため、「時間が経てば自然に回復する」とは言い難い状況が浮かび上がる。

Lawson は、これは単なる一時的な逼迫ではなく、将来世代まで含めてプライマリ・ケアを支える人的基盤そのものが痩せ細っていく「持続性の危機」だと論じている。

制度設計の「時代遅れ」が危機を加速させる

  • カナダの家庭医の声として、「複雑な患者を診ているのに、いまだに旧来の出来高払いなので、チームケアも支えられない」という嘆きが紹介される。
  • こうした報酬・組織モデルの「時代遅れ」はカナダだけの問題ではなく、多疾患・高齢患者に対する包括的ケアが求められる時代に、プライマリ・ケアを構造的に疲弊させていると論じられる。

プライマリ・ケアに求められている役割と、実際の制度・報酬体系のギャップが、世界各地で同じ方向にストレスを生んでいるという見立てである。

「Learning Health System」としてのプライマリ・ケアへ

  • Lawson は最後に、同号BJGPに掲載された Foo らのエディトリアルを紹介し、一次医療を「Learning Health System」として再設計する必要性を強調する(3)​
  • Learning Health System とは、日常診療のデータと現場の学びを循環させ、継続的な改善を内在させた医療システムのことであり、これをプライマリ・ケアレベルで実装することで、持続可能で高性能なプライマリ・ケアが実現しうるとされる。

単に医師数を増やすだけでなく、診療所そのものを「学習するシステム」に変えることが、今回の危機への構造的な解決策として提案されている点が重要である。

日本はどうか

  • Lawson のエディトリアルは「英国の嘆き」ではなく、コモンウェルスファンド調査やLancetのHRH分析など、国際データに立脚した「世界規模の一次医療危機」の宣言として読むことができる。
  • 日本でも地域偏在・高齢化・勤務医の過重労働など類似の問題を抱えており、「自国の特殊事情」として片づけるのではなく、制度設計や診療所のあり方そのものを見直す契機として読む価値が高い。
  • さて、日本はというと、医師の中ですら、誰がプライマリ・ケアの提供者かはっきりしていない(定義及び数え方が確立していない)、ので、足りている、足りていないかすらわからない。(私見では、数の不足はそれほど大きくないが、質の不足が甚大、という立場です)
  • 本文献は、editorialなので、それほど内容はあまりしっかりしていないが、プライマリ・ケアの人財不足については誰も反論する余地はないと思われる。

出典

  1. Gunja M et al. “Stressed Out and Burned Out: The Global Primary Care Crisis — Findings from the 2022 International Health Policy Survey of Primary Care Physicians.” Commonwealth Fund, 2022.
  2. Haakenstad, Annie et al. Measuring the availability of human resources for health and its relationship to universal health coverage for 204 countries and territories from 1990 to 2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019. The Lancet, Volume 399, Issue 10341, 2129 – 2154
  3. Foo D, Mahadeva J, Lopez F, Ellis LA, Churruca K, Dammery G, Willcock S, Braithwaite J. High-performing primary care: reinvigorating general practice as a learning health system. Br J Gen Pract. 2022 Dec 21;73(726):8-9.

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