はじめに
いわゆる患者登録制(registration)に対する日本医師会のスタンスについては、フリーアクセスは、国民の受療権を守る『金看板』であり、これを崩しかねない登録制導入は、組織の総力を挙げて阻止すべき『絶対防衛ライン』となっている、というのが簡単なサマリーで、その裏付けとなる発言、記事はたくさん見つけることができますが、一つだけ引用しておきます。(これについて政治的な立場を議論したり、特定の団体を批判するのは本記事の目的ではありませんので、これにとどめておきます)
医療維新「かかりつけ医機能」の評価なら賛成、制度化は反対 – 城守国斗・日医常任理事に聞く◆Vol.2外来機能報告制度等への対応は次々回以降の改定で レポート 2021年9月6日 (月)(要ログイン)
それ以外、例えば「かかりつけ医」を制度化するといった議論は、医師会としては絶対に反対します。
患者登録制度(いわゆる「かかりつけ(usual source of care)」を決めること)については、あり・なしの二項対立ではなく、またこれまでの分類のように義務か任意かという話でもなく、現時点で制度レベルで運用している国の事例を分析すると、少なくとも2x4の8通りぐらいに類型が分けられるのではないか、というのが本論文の主旨。
動画でざっくり概要を掴みたい、という方は、最後にリンクがあります。
今回の論文
導入
- 多くの高所得国で、患者登録(enrolment)はプライマリ・ケアにおける責任の所在を明確化し、継続性と予防ケアの提供を強化する政策手段として用いられている。これまでは義務か任意かの単純な分類だけで分けられていた。
- 本レビューは、12カ国から抽出した15の患者登録スキームの質的分析を通じて、登録制度の特徴とバリエーションを整理し、比較可能な分類の枠組み(typology)を構築することを目的とした。
- 例えば、ニュージーランドの場合、制度上、かかりつけ医への登録は「任意」とされている。しかし、登録していない診療所にかかると、患者の自己負担額が非常に高くなるように設計されている。この強力な金銭的インセンティブにより、ほとんどの国民が登録を選択しており、その結果として、制度は任意とはいえ、ほぼ義務的なものと非常に近い形で機能している。
- この事実は、制度の表面的なラベル(「任意」や「義務」といった言葉)だけを見ていては、その国で患者がどのような医療を体験しているのかの本質を理解できないことを示している。
方法
対象:12の先進国(高所得国)経済協力開発機構(OECD)加盟国、15の制度です。(当然の如く日本は入っていない)。(カナダは3つの州、アイルランドは公的制度と民間制度の両方)
オーストラリア、カナダ(ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州の各州を対象)、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド(公的制度と民間制度)、イタリア、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、イギリス
選定基準:
- 選考文献(23)の選定対象をそのまま採用
- 「患者登録(enrolment)」という明確な政策を有している
- 患者登録を「患者が特定のプライマリ・ケア医師または診療所に正式に結びつくこと」と定義
注:米国(当然日本も)が含まれていないことに注意
論文の検索および選定基準
- 登録制度に関連する、期限の切れていない政府文書、制度解説資料に限定して検索、最終的に73文書が選定された。すべての対象文献はappendix (pp 3–8)。
論文の報告形式
Standards for reporting qualitative research (SRQR) に基づく
分析
- 2名の独立した研究者が、自由なコーディングに沿ってデータ抽出を行い、逐次的に比較しながら質的テーマ分析を実施した。
- そこで抽出されたテーマの枠組み(Table 1)に従って、15の制度を記述
- 識別情報:国(管轄区域)、制度名、対象集団
- 非カテゴリ変数の分類特徴:登録が必要か、期待されているか、あるいは任意(ボランタリー)か
- カテゴリ変数の分類特徴:患者登録制度(スクリーニング基準)(あり・なし)、患者登録先を誰が決めるか(患者、またはその他の当事者(公的機関や医療保険者を含む場合がある))、登録先は(医師に登録するか、診療所に登録するか)、登録先の変更はできるか(はい、いいえ、その他)、登録中に他の診療所や医師を受診できるか(はい、いいえ、その他)、診療所が未登録の患者を診察できるか(はい、いいえ、その他)、登録患者を拒否または解除する選択肢はあるか(はい、いいえ、その他)
- インセンティブ特徴:患者向けの金銭的インセンティブ、患者向けの非金銭的インセンティブ、患者または診療所の登録における障壁、資金調達モデル(支払いモデル)

結果
この記述分析の結果は本文table 2、その結果、下記の7領域において、制度に幅が見られることが判明

分類類型の開発
- それらを踏まえて、分類記述のための大きな2つの軸を設定。
- 分類軸(1):登録の仕組み
- 分類軸(2):登録と継続診療を受けることへのインセンティブ(うまみ)
分類軸(1):登録の仕組み(登録先以外への受診可否)

任意(voluntary)という記述で制度が説明されていたのは、オーストラリアとニュージーランドのみ。しかしそこでも、登録をしないことや登録診療外で診療を受ける際の自己負担がかなり高いために、実質の登録率は高い。それ以外の国では義務という言葉も任意という言葉も使用されていないが、義務であるかの如く、登録を促進する仕組みが用意されている。
登録先の選択と方法
多くの制度で患者は登録先を選択できるが、オーストラリアのMyMedicareのように特定の制度への加入をしている診療所にしか登録できない。カナダやアイルランドでは公的な待機リストの提供や支援が必要な人への支援が提供される。デンマークやスウェーデンでは自動的に登録されますが、後に変更可能。登録の対象は主に「医師個人」ですが、オーストラリアやニュージーランド、スウェーデンの一部などは「診療所単位」での登録。ただし医師の登録の場合は、通常同一医療機関の他の医師に見てもらうことも可能なことが多い。
登録先の変更と制限
スウェーデンを除くすべての制度で変更が可能だが、イギリスやカナダのように診療所が満員で新規受け入れができないという実質的な制約も多い。変更時に以前の登録が自動解除される国(イギリス、NZ、オンタリオ州の一部など)もあれば、事前に正式な解除手続きが必要なケース(ケベック州など)もある。また、転居の場合を除き、登録先を変更したい場合に、デンマークの手数料設定や、ドイツ、ノルウェー、イギリスのように変更頻度を制限している国がある。
他院受診の制限
制度間の最大の違いは、登録先以外の(プライマリ・ケア)受診が可能かどうか。フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、イタリア、ノルウェー、カナダ(各州)の計9つの制度では、緊急時等を除き、(プライマリ・ケアの)他院の受診は原則禁止されている。一方で、オーストラリア、デンマーク、アイルランド、NZ、スウェーデンでは登録を必要としない急病診療所・時間外診療所のようなものへの他院受診が可能だが、フランスのように他院受診時には紹介状が発行されない、プライマリ・ケアの全てのサービスを受けられない、などのサービス制限が生じる場合がある。アイルランドでは既存の診療所が新規患者を受け入れる余地がない場合に限り、登録していない診療所への受診が認められる。
分類軸(2):登録と継続診療を受けることへのインセンティブ(うまみ)

多くの国で、国民皆保険(自己負担あり・なし)が提供されており、アイルランドだけが、EU内で唯一皆保険がない国として批判を浴びた(2025)。多くの制度において、登録の有無によらず医療費は同じである。
英国は公的(public)のプライマリ・ケア、セカンダリ・ケア(領域別専門医)にかかるには登録だけが唯一の方法である。(日本医師会が反対しているのはおそらくこれ。私見)
- 費用の差別化: デンマークでは登録先での診療は無料だが、他院受診には自己負担が生じる。ニュージーランドやフランスでは登録先でも自己負担はあるが、登録先以外の受診では自己負担額が高くなる。
- 追加サービスとボーナス: オーストラリアでは登録患者のみが追加の補助サービスを受けられる。ドイツの一部の疾病基金では、予防プログラムに参加し登録を行った患者に現金やボーナスを支給している。
- 非金銭的なインセンティブ(サービスの質とアクセス)
- 継続性の明示: カナダ(BC州、オンタリオ州、ケベック州)の制度だけが、生涯を通じた包括的・調整的なケアの提供を、登録の直接的な目的や利点として明確に定義している。
- ゲートキーパー機能: 登録が必須のイギリス、オランダでは、登録医が二次・三次診療への「門番」として機能している(以下参考)。フランスでは専門医への紹介を受けるためには登録が事実上不可欠である。
- アクセスの保障: アイルランドやオランダのように診療所が満員になりやすい地域では、登録が「医師への確実なアクセス(予約の優先権)」を確保する唯一の手段となる場合がある。
- 特定の健康診断: フランスでは、登録患者に対して5年ごとの完全な健康チェックが提供される。
参考
2つの軸で定義される8つの分類
以下の通り(本文fig 1)

対象となった各国の制度を上記に分類すると以下のとおり(本文fig 2)

考察(ここはほぼ直訳で全て載せています)
本研究は、Marchildonらの研究(文献4)で示された「登録は一様な概念ではない」という知見を支持している。本研究で構築した類型(typology)は、登録制度を構成する要素やその組み合わせを整理し、どの構成が登録率や継続性、アウトカムの改善に結びつくかを分析するための枠組みを提供するものである。Marchildonらの枠組みでは「義務性」を重要な次元の一つとしていたが、本研究では制度の実態として強力なインセンティブにより“事実上の義務化”が生じている場合が多いため、義務性は除外した。
この新しい類型は、登録制度を一律のカテゴリとして扱うのではなく、政策間比較をより正確に行うための基盤となる。たとえばデンマークとニュージーランドの制度は類似点が多く比較が容易であり、近年登録制度を導入したオーストラリアは、アイルランド、デンマーク、スウェーデン、ニュージーランドの経験から学ぶことができる。ただし、比較にあたっては各国で制度導入の目的や経緯が異なることを考慮する必要がある。オーストラリアでは、登録はケアの継続性向上だけでなく他の制度改革を促進する手段でもある。したがって、導入の目的と方法(段階的か一斉実施か)を明確にすることが重要である。
登録制度は、医師・診療所と患者の関係性、情報共有、マネジメントの側面からケアの継続性を支える仕組みである。予防医療においては、登録が人口ベースの包括的なケア管理を可能にし、政策的・財政的には資源配分の基礎を提供する。(強調はブログ主)しかし、登録による関係的継続性(relational continuity)の向上効果に関しては研究間で結果が一定していない。これは、登録の仕組みやインセンティブ、医師の責務の違いによる可能性がある。
カナダのブリティッシュコロンビア州やケベック州では、医師と患者が正式な契約を交わし、医師が継続的な診療責任を持つ形が明確である。一方、イギリスやオランダのように、制度上の文書化はなくても、家庭医が診療の継続管理や専門医への紹介を担うというケアコーディネーションの責任は従来から確立している。したがって、制度上の形式の差はあっても、実質的な役割の差は小さい可能性がある。
本レビューは、登録制度の構造と影響に関する理解を深化させた。われわれの類型は「柔軟性」と「インセンティブ」の2軸で制度を整理しており、既存研究より焦点を絞った分析が可能である。ただし、義務か任意かという単純な区分は有用性が低い。今後の研究では、提示した類型の妥当性を検証し、制度設計や成果の比較、特定要素の影響分析を行う必要がある。特に、「登録先以外に受診できる柔軟性」がケア継続性をどこまで弱めるか、また医師側へのインセンティブが登録率にどう影響するかを検討することが求められる。
Marchildonらの枠組み(義務性・提供者選択・インセンティブ)に対し、本研究では「患者が他の診療所を利用できるか」と「登録・受診に関するインセンティブの有無」という2変数を重視し、より実態に即した類型を提案した。今後は、これらのインセンティブや期待水準(なし・最小限・厳格)の強度を定量的に評価する研究が必要である。
本研究に用いた15制度は比較的単純な類型化に適していたが、今後は標本数を増やして多変量分析に基づく精緻な類型を作成することが望ましい。また、本研究の対象はすべて高所得国に限られており、一般化には限界がある。より多様な国・制度での検証が必要である。さらに、今回は患者側のインセンティブに焦点を当てたが、医療者・診療所側のインセンティブや制度的制約も重要な要因である。
国によっては登録制度を通じてのみプライマリ・ケアにアクセスできる場合もあれば、ウォークインクリニックなど別のモデルが併存するケースもある。そのため、登録患者率には制度設計の違いが強く影響する。また、本研究では公開情報のみを分析対象としたため、制度運用の実態すべてを反映していない可能性もある。
本レビューの成果は、今後の比較研究の基盤を提供する。登録制度の異なる設計や効果を理解する手がかりを与え、より効率的で公平な制度設計に向けて政策立案者を支援する枠組みとなる。今後は、個人医との登録だけでなく、看護師や多職種チーム単位の登録(例:アラスカのNuka care、オーストラリアの先住民コミュニティ健康組織など)も含めて検討し、制度の多様性と有効性を総合的に分析することが求められる。

まとめ
ここまで、の内容の通り、患者登録制に反対、という立場をとるのであれば、その、どの部分に対して、どの程度反対なのかを明示しなくては、「反対のための反対」としか捉えられかねません。
以下は私見です。日本で導入をするのであれば、大きな変化にならないよう、段階的に、が良いと思いますので、かなりゆるいレベル(プライマリ・ケアに関しても登録先以外にも受診可能)登録しなくても良い、としておいて、その代わり、ほんの少しだけ金銭的、非金銭的インセンティブをかける(登録先以外のプライマリ・ケアに直接行く場合は、患者負担が少し上がる。そしてその分はその医療機関の収入とする(国がとるのではなく)、登録した診療所での患者情報のみマイナンバーカードとリンクしており、そこからセカンダリ・ケアへ紹介された場合のみその情報が引き継がれる(これは無理があるかも)、登録した診療所で健診・検診・予防接種を受けた場合のみ患者負担が安くて済む。ぐらいで始めて、レセプトデータはあっという間に集まるでしょうから、登録先を決めている患者とそうでない患者の様々なアウトカム比較が可能となります。
かかりつけ医機能報告制度も始まっていますので、そこで表示されている機能と登録との様々な相関関係も見ていくことで、かなり色々判明すると思います。
最後にもう一点、患者登録制度と人頭払い(診療報酬支払い制度の一つ)はセットで語られることが多いですが、人頭払いにせずに患者登録制度を実現させることは可能ですので、それについても、人頭払いについて反対なのか患者登録制度の何のどの程度まで反対なのか、明確に示していかないと、知的な議論ができない人と思われることになりますよ。
解説動画
相当ざっくり(かつ一般の方向け)なので、あくまで参考程度に、詳しくはこの記事、が良いと思います


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