下流収益(downstream revenue)の解析(オンラインジャーナルクラブ)

医療制度・公衆衛生

はじめに

プライマリ・ケア部門が赤字構造だから、なんとかするように、と言われた経験のある人は多いかもしれません。

下流収益(downstream revenue)の考え方、日本ではほとんど知られていませんが、極めて有用な考え方なので、紹介しておきます。定まった日本語訳はなく、派生収益、連鎖収益、波及収益、二次的収益 、関連収益などの候補がありますが、ここでは下流収益(downstream revenue)としています。

Fahey P, Cruz-Huffmaster D, Blincoe T, Welter C, Welker MJ. Analysis of downstream revenue to an academic medical center from a primary care network. Acad Med. 2006;81(8):702-707.

皮膚科、遺伝子カウンセリング、消化管内視鏡など他領域についての下流収益の論文は複数ありますが、プライマリ・ケアに関するものはほぼこの一本といえるでしょう。

大まかなまとめ

本研究は、オハイオ州立大学メディカルセンターのプライマリ・ケアネットワークが、たとえ診療所単体では赤字であっても、病院全体には大きな財政的利益をもたらしていることを示した分析である。 対象は18施設から成るネットワークで、年間約25万件の外来を対象に、入院・外来検査・専門医診療を5つの「下流収益」に分類し、粗収入・純収入・直接貢献利益を算出した。

ネットワーク自体は純収入1,890万ドルに対して費用2,720万ドルで、営業損失は830万ドルだったが、ネットワーク医師が直接担当した入院・検査だけで1,400万ドルの直接貢献利益が生じ、赤字を上回る利益を病院にもたらしていた。 さらに、紹介先の専門医による検査・入院を、時間間隔や受診回数に基づく保守的な重み付けで「紹介由来」と推定して加えると、メディカルセンターへのダウンストリーム純収入は約1億1,470万ドル、直接貢献利益は5,190万ドルに達した。 専門医のプロフェッショナルフィーも含めると、総下流収益は3億ドル超であり、ネットワークへの「投資」(830万ドルの損失)1ドルあたり約6.3ドルの直接貢献利益が得られていた。

著者らは、こうした結果から、プライマリ・ケアネットワークを「損失部門」「loss leader」とみなすのではなく、アカデミック・メディカルセンター全体の収益とミッションを支える戦略的な「投資」として位置づけるべきだと結論づけている。

論文の概要

以下は、元論文の見出し構造を保ちながらのやや詳しめのサマリー


Abstract

Purpose

多くのアカデミック・メディカルセンター(academic medical centers:AMCs)は、紹介基盤の確保とプライマリ・ケア教育の場を得る目的でプライマリ・ケアネットワーク(以下、ネットワーク)を構築しているが、個々の診療所単位で見ると採算が合わないことが多い。 一方で、入院、検査、処置などを通じてメディカルセンター本体で発生する収入は大きい可能性があるため、本研究ではオハイオ州立大学メディカルセンター(OSUMC)の18施設から生じる「下流収益」を定量的に評価した。

Method

2003年7月1日〜2004年6月30日の1年間について、入院・外来検査・専門医診療に関するデータを5つの収入ストリームに分類し、粗収入、純収入、直接貢献利益(direct contribution margin)を算出した。 ネットワーク患者から生じる全ての収入がネットワークに依存しているとは言えないため、時間間隔と受診関係(かかりつけ関係)に基づく保守的な「重み付けシステム」を独自に開発し、下流収益を控えめに推定した。

Results

ネットワーク自身は純収入1,890万ドル、費用2,720万ドル、営業損失830万ドルであったが、ネットワーク医師が直接かかわる入院と検査(ストリームI・II)だけで1,400万ドルの直接貢献利益が生じ、ネットワーク損失のほぼ2倍であった。 5ストリーム全体では、メディカルセンターへの下流純収益は約1億1,470万ドルと、ネットワーク純収入の6.1倍に達し、直接貢献利益は5,190万ドルでネットワーク損失の6.3倍であった。 専門医の専門職収入(ストリームV)を含めると、総下流粗収益は3億ドルを超えた。

Conclusions

プライマリ・ケアネットワークは単体として赤字であっても、アカデミック・メディカルセンター全体としては非常に大きな財政的貢献をもたらし、「損失」ではなく戦略的な「投資」とみなすべきであることが示された。


本文

背景

過去数十年で、AMCs は入院ベッドの稼働維持とマネージドケアへの対応のため、救急外来やプライマリ・ケア診療所など外来サービスを所有・運営するようになった。 これらのネットワークは教育・地域医療・研究データ確保など複数の目的を持つが、多くの施設で経営赤字が問題となり、一部ではネットワークの縮小・解体(例:Allegheny Bankruptcy)が起きている。

その一方で、「下流収益」すなわちプライマリ・ケア診療所から学内病院・検査部門・専門診療科へ流入する収入により、ネットワーク全体としては大きな収益を生んでいる可能性が指摘されてきた。 既存研究では、プライマリ・ケア医1ドルの請求に対し約6倍の下流収益が生じる「multiplier effect」が報告されているが(後日紹介予定)、包括的かつ保守的な評価は限られていた。


Method

研究対象とネットワーク概要

対象はOSUMCのプライマリ・ケアネットワークで、11の家庭医診療所、5つの一般内科診療所、2つの産業医学診療所、1つのスポーツ医学/家庭医診療所(ただしスポーツ医学データは除外)の計18施設で構成されていた。 76名の常勤・非常勤医師と104名のレジデントが在籍し、年間約25万件の外来受診があった(スポーツ医学の約4万3千件は含まず)。​

データソースと期間

下流収益の評価期間は2003年7月1日〜2004年6月30日の12カ月で、OSUMCの情報ウェアハウス(臨床・財務データベース)と大学付属の検査部門、専門医のファカルティ・プラクティスプランの請求データを用いた。 なお、紹介から検査・入院までの時間差を考慮するため、ネットワーク受診歴は前年度分(2002年7月〜2004年6月)まで遡って抽出した。

5つの収入ストリーム

ダウンストリーム収入は以下の5ストリームに分類された。(ネットワーク医師というのは、いわゆる大学病院と連携しているプライマリ・ケア医療機関の医師)

  1. ストリームI:ネットワーク医師が主治医として担当した入院(Network physician–attended inpatient admissions)。
  2. ストリームII:ネットワーク医師が直接オーダーした外来検査・処置(Network physician–ordered outpatient tests/procedures)。
  3. ストリームIII:ネットワークからの紹介を受けた専門医がオーダーした外来検査・処置(specialist-ordered tests/procedures)。
  4. ストリームIV:ネットワークからの紹介を受けた専門医が担当した入院(specialist-attended inpatient admissions)。
  5. ストリームV:ストリームIIIおよびIVに関連する専門医の専門職収入(professional fees)。

ストリームI〜IVの収入はメディカルセンターに帰属し、ストリームVは専門医グループに帰属すると定義した。

ダウンストリームの同定と重み付け

ネットワークとの直接関連(ストリームI・II)

入院あるいは検査・処置がネットワーク医師による退院・オーダーであれば、ストリームI・IIとしてその全額をダウンストリーム収入とした。

紹介に起因する専門医診療(ストリームIII・IV)

ストリームIII・IVでは、当該専門医診療がネットワークからの紹介によるものかどうかを明示的に特定する登録情報が不完全であったため、以下の代理指標に基づき「紹介由来である確率」を推定した。

  • ネットワークでの過去受診歴の有無および回数。
  • 直近のネットワーク受診から専門医受診・入院までの時間間隔。
  • 同一患者における継続受診の関係(1回のみ vs 複数回)。​

これに基づき、

  • 時間重み(time weight):ネットワーク受診からの経過日数に応じて0〜1.0の係数を付与(例:外来検査では0〜90日=1.0、91〜180日=0.5、180日超=0)。
  • 関係重み(relational weight):入院について、ネットワーク受診回数と日数に応じて0〜1.0の係数を付与(例:過去1回のみかつ8〜365日=0.5、複数回受診なら1.0)。

を掛け合わせ、当該専門医診療に含めるべきダウンストリーム収入額を保守的に推定した。

(筆者注:この重みづけは結構良いアイデアと思いました)

専門医の専門職収入(ストリームV)

専門医のプロフェッショナルフィーについても、医療記録番号によりネットワーク受診歴と紐づけた上で、ストリームIIIと同様の時間重みを適用し、純収入は調整後回収率44%を用いて推計した。

品質保証

各ストリーム・各病院ごとに収入上位の症例を抽出し、在院日数、退院診断、主要手技などの妥当性を確認し、不合理なケースは解析から除外することでデータ精度を担保した。


Results

ネットワーク自体の損益

解析対象年度におけるネットワーク自身の財務状況は、純(営業)収入1,890万ドル、営業費用2,720万ドル、営業損失830万ドルであり、スポーツ医学部門やOSUMC本部から配賦される間接費は含まれていない。(筆者注:つまり連携診療所群単体では赤字経営だったということ)

ダウンストリーム収入(ストリームI〜IV)

表3に示されるように、OSUMCへのダウンストリーム収入は以下のとおりであった。(直接貢献利益=収入から、その収入を生み出すのに必要だった直接的な費用と固定費を引いたもの)

  • ストリームI(ネットワーク医師担当入院):
    粗収入5,120万ドル、純収入2,120万ドル、直接貢献利益690万ドル。
  • ストリームII(ネットワーク医師オーダー外来検査・処置):
    粗収入6,350万ドル、純収入2,670万ドル、直接貢献利益1,310万ドル。
  • ストリームIII(専門医オーダー外来検査・処置、紹介由来分):
    粗収入3,330万ドル、純収入1,130万ドル、直接貢献利益710万ドル。
  • ストリームIV(専門医担当入院、紹介由来分):
    粗収入1億610万ドル、純収入5,550万ドル、直接貢献利益2,490万ドル。

ストリームI〜IVの合計として、

  • メディカルセンターへの粗収入は2億5,410万ドル、純収入1億1,470万ドル、直接貢献利益5,190万ドルであった。

専門医の専門職収入(ストリームV)

ストリームVとして、専門医のプロフェッショナルフィーは粗収入4,980万ドル、推計純収入2,190万ドル(回収率44%)であったが、直接貢献利益は算出対象外であった。

総ダウンストリーム規模と「投資効果」

ストリームI〜Vを合わせると、総ダウンストリーム粗収入は3億390万ドル、純収入1億3,660万ドルとなった。 ネットワークへの「投資」(営業損失830万ドル)1ドルあたり、OSUMCはダウンストリーム直接貢献利益として約6.30ドル(5,190万ドル ÷ 830万ドル)を得ており、ネットワークは強力な財政的レバレッジを生んでいることが図1(論文figure 1)に示されている。(連携診療所群単体では営業損失830万ドルだが、その診療所群と連携していることで、大学病院本体に、5,190万ドルの利益をもたらしている。という意味)


Discussion

本研究は、大規模なプライマリ・ケアネットワークがAMCsにもたらす財政的貢献を、粗収入・純収入・直接貢献利益という3層で定量化した点に特徴がある。 ネットワーク自体は赤字であるにもかかわらず、下流で発生する収入と利益はこれを大きく上回り、ネットワークを「損失部門」とみなす従来の見方に疑問を投げかけている。

1診療所あたりではなく、年間約25万件の外来受診全体で見ると、5ストリームを合算したダウンストリーム純収入は1受診あたり約550ドルとなり、うちメディカルセンターに帰属する分だけでも、粗収入約1,000ドル、純収入約460ドル、直接貢献利益約200ドルに相当した。 これは、プライマリ・ケア診療が、検査・手術・入院等への「入口」として非常に高い経済的価値を持つことを具体的に示している。

先行研究で示された「プライマリ・ケア1ドルに対し約6倍の下流請求」という乗数効果に近い倍率が、本研究でも認められた。 本研究は紹介追跡が完全ではないため重み付けにより保守的な推定を行っており、実際のダウンストリーム効果はさらに大きい可能性が高いと著者らは述べている。

一方で、ネットワークが赤字となる要因としては、病院雇用医に特有の高い人件費・福利厚生費、検査を病院側で実施することによる診療所側収入の減少、教育・研究に伴う診療時間の減少、医療センターの使命に伴うペイアーミックスの悪化などが挙げられている。 こうした事情から、ネットワークはしばしば「loss leader」や「financial black hole」と呼ばれてきたが、本研究結果を踏まえると、ネットワークへの支出は「operating loss」ではなく、将来収益を生み出す「investment」と捉えるべきだと主張している。


Conclusions

プライマリ・ケアネットワークを有するアカデミック・メディカルセンターでは、診療所レベルでの赤字だけを見てネットワーク縮小・解体を判断すべきではない。ネットワークを通じて生じる下流収益と直接貢献利益は、ネットワークへの財政的投資を大きく上回るため、経営判断においては全体システムとしての収益構造を評価する必要があると結論づけられている。

まとめ

米国と日本の診療のシステムは大きく異なっている、という点では、そのまま鵜呑みにできないという部分も多いかもしれません。

米国の場合、プライマリ・ケア医がコモンプロブレムの入院をネットワークの病院に入院させ、自らが、入院主治医として、指示を出し診療をする場合も少なくありません(ストリームI) 診療所は比較的軽装備のため、採血検体は自施設でとっても、その検査や、CT, MRI、内視鏡といった画像検査はネットワークの検査センターなどへ紹介します。(ストリームII)。また、領域別専門医への直接受診が難しく、プライマリ・ケアからの紹介が必要です。(ということがあり、プライマリ・ケアで開業をすると、多くの領域別専門医からお花やお祝いが届くようです)(つまりストリームIII, IVについても発生させる最初のボタンを押すのはプライマリ・ケア医)

しかし、日本の診療報酬の構造では、直接売上(診療報酬)の獲得をできるのは、ほぼ医師のみで、受付、看護師、看護助手などは直接診療報酬を生み出すことはできないため、それなら、医師以外の職種は全て辞めさせれば、コストが下がって、利益が増えるのか?いう議論(いわゆる、コストセンターとプロフィットセンター)と似ています。受付業務、予約業務、請求業務、トリアージ、予診、バイタルサイン、療養の説明などを全部、医師がしなければならない状況を想像してみてください。

米国と異なり、日本では患者が直接領域別専門医にかかることが可能です。しかし、それによって、医療費が上昇することは数多くの研究で示されていますし(省略します)、それに加えて、下記のような状況を考えてみてください。

三次医療機関において、急性期を終えて安定している患者を連携先のプライマリ・ケアに委ねることで、外来患者は減るかもしれませんが、そのことで、外来を週に半日でも1日でも閉めることができれば、その空いた医師の時間で、より多くに本当に三次医療機関でなければ受けられない医療(集中治療、侵襲的検査、長時間の手術など)を必要としている患者さんを引き受けることができるようになるはずです。その方が、(おそらくそのような医療の方が、圧倒的に診療報酬も高いですし、)領域別専門医の人たちは、本当にやりがいのある、その分野を目指す理由であった、そして、自分にしか提供できない医療を提供できる時間が増え、三方よし、の構造になるのではないでしょうか?

本エントリーはAIの出力をほぼそのまま表現だけ整合性をとっています。

ここまで


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