効果的なフィードバックのエクスパートに最短距離でたどり着くための論文6本(10本)+α

FD(faculty development)

導入:レジデントが感じている「フィードバック・ジレンマ」

180人のレジデントを対象とした2024年の研究で「フィードバックが自分たちの成長にとって非常に重要だとわかっている一方で、実際には質・量ともに十分ではない」というジレンマを語っています。

Shafian S, Ilaghi M, Shahsavani Y, Okhovati M, Soltanizadeh A, Aflatoonian S, Karamoozian A. The feedback dilemma in medical education: insights from medical residents’ perspectives. BMC Med Educ. 2024 Apr 19;24(1):424.

  • 学習者側は「具体的でタイムリーなフィードバックが欲しい」と強く望んでいる。
  • しかし臨床現場では時間・関係性・文化などの壁に阻まれ、「欲しいフィードバックが得られない」という経験が繰り返されている。

この「フィードバック・ジレンマ」を乗り越えるには、
1)フィードバックに関する理論とエビデンスを押さえ、
2)学習者と指導医の双方の役割を理解し、
3)個人スキルだけでなく、教育的同盟や組織文化まで見通す視点
が必要です。

以下では、駆け出し指導医が最短距離で「フィードバックのエクスパート」レベルに到達するための論文セットを、6本版・10本版の二段階で紹介します。(ここに絞り込むために40本前後のフィードバック関連論文を読みました)


まず押さえたい「6本」:核となる理論とフレーム

読むべき順番と一言ポイント

1. Archer JC. State of the science in health professional education: effective feedback. Med Educ. 2010;44(1):101-108.
→ 医療系教育におけるフィードバック研究の「地図」。

  • 医学教育の文脈で、フィードバックが学習にどう影響するかを整理した総説。
  • 定義、目的、阻害要因、実践原則がコンパクトにまとまっており、「全体像」を掴むのに最適です。

2. van de Ridder JMM, Wetzels R, Stokking KM, ten Cate OTJ. Guidelines: the do’s, don’ts and don’t knows of feedback for clinical education. Perspect Med Educ. 2015;4(6):284-299.
→ 何をすべきか/何をしてはいけないかを明確にする実践ガイド。

  • 構造化された文献レビューから「Do/Don’t/Don’t know」の3分類で臨床フィードバックの指針を提示。
  • Table 1に「やるべきこと」「避けるべきこと」が非常にわかりやすく整理されており、FD資料にもそのまま使えるレベルです。

3. Kluger AN, DeNisi A. The effects of feedback interventions on performance: a historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory. Psychol Bull. 1996;119(2):254-284.
→ 「3分の1のフィードバックはパフォーマンスを悪化させる」ことを示した古典。

  • 約600件の研究を統合したメタ分析から、フィードバック介入のうち約1/3がパフォーマンスを下げていたことを報告。
  • タスクへの注意から自己(自尊心)への注意にシフトすると成績が悪化する、というFeedback Intervention Theory(FIT)の中核概念を押さえられます。

4. Telio S, Regehr G, Ajjawi R. Feedback and the educational alliance: examining credibility judgements and their consequences. Med Educ. 2016;50(9):933-942.
→ 「教育的同盟」と指導医の信頼性(credibility)という関係性のフレーム。

  • 学習者は、フィードバックの内容以上に「誰が」「どんな関係性の中で」言っているかを重視していることを質的に示した研究。
  • 目標の共有・タスクの合意・情緒的な絆(bond)から成る“Educational Alliance”の概念を実証的に支え、信頼性判断がフィードバックの受容性にどう影響するかを描いています。

5. Carless D, Boud D. The development of student feedback literacy: enabling uptake of feedback. Assess Eval High Educ. 2018;43(8):1315-1325.
→ 学習者側の「フィードバック・リテラシー」を4つの柱で整理。

  • Appreciating feedback / Making judgments / Managing affect / Taking action の4つを、フィードバックを活用するための中核能力として提示。
  • 「良いフィードバックを出す」だけではなく、「それを活かせる学習者を育てる」という視点を与えてくれます。

6. Watling CJ, Ginsburg S. Assessment, feedback and the alchemy of learning. Med Educ. 2019;53(1):76-85.
→ 極めて成功率の低い「錬金術」のような評価とフィードバックのバランスをどう設計し直すか。

  • high-stakes なサマリー評価と、成長志向のフォーマティブ・フィードバックがしばしば混同され、学習者が防衛的になることを指摘。
  • フィードバックを「成績のための裁き」から「成長のためのコーチング」に変えるために、制度・文化・関係性レベルでの再設計が必要だと論じています。

さらに深く学ぶ「10本」バージョン

6本に加え、自己評価・ISA・評価的判断・文化の要素を足して「一通り全部見える」セットがこちらです。

読む順番のおすすめ

1. Archer 2010(全体像)
2. van de Ridder 2015(Do/Don’t)
3. Kluger & DeNisi 1996(FIT)
4. Telio 2016(Educational Alliance)
ここまでで「何を/なぜ/誰が」という骨格が入ります。

5. Davis DA, Mazmanian PE, Fordis M, et al. Accuracy of physician self-assessment compared with observed measures of competence: a systematic review. JAMA. 2006;296(9):1094-1102.
→ 「自己評価の精度が低い」ことを示す医師対象のシステマティックレビュー。

  • 医師・医学生の自己評価は、客観的なパフォーマンス指標と一致しないことが多いと結論。
  • 「外部からのフィードバック」が不可欠な理由を、エビデンスで押さえられます。

6. Sargeant J, Armson H, Chesluk B, et al. The processes and dimensions of informed self-assessment: a conceptual model. Acad Med. 2010;85(7):1212-1220.
→ Informed Self-assessment(ISA)の概念モデル。

  • 単なる内省ではなく、「多様な外部データ+内的省察」を統合した自己評価プロセスをモデル化。
  • フィードバックを「ISAを支える情報」として位置づける視点が得られます。

7. Tai J, Ajjawi R, Boud D, Dawson P, Panadero E. Evaluative judgement: the development of student self-reliance in assessing the quality of work. High Educ. 2018;76(3):467-481.
→ 評価的判断(Evaluative Judgement)の理論的基盤。

  • 学習者が「何が良い仕事か」を自ら判断できるようになることを、長期的な学習目標として位置づけた概念論文。
  • フィードバックとISAを、「評価的判断の育成プロセス」の一部として理解できます。

8. Carless & Boud 2018(Feedback literacy)


9. Ramani S, Könings KD, Ginsburg S, van der Vleuten CPM. Twelve tips to promote a feedback culture with a growth mind-set. Med Teach. 2019;41(6):625-631.
→ 成長志向のフィードバック文化をつくる12の具体的Tip。

  • ①安全な雰囲気作り、②双方向の対話、③学習者の自己評価を引き出す、など、エビデンスに基づく組織レベルの実践がまとめられています。

10. Watling & Ginsburg 2019(Alchemy of learning)

この10本を順番に読むことで、

  • 定義・原則・失敗メカニズム
  • 自己評価・ISA・評価的判断
  • 教育的同盟・文化・評価制度
    まで一通りカバーできます。

日本語で理解を深めるための+α(おすす3本)

英語論文だけではどうしても負荷が高くなるので、日本語で全体を整理してくれている文献を並行読書用として挙げておきます。

  1. 岡田唯男. 効果的なフィードバック. in 岡田唯男, 藤沼康樹, 杉本なおみ(共著).『臨床指導医養成必携マニュアル』.東京: ぜんにち出版株式会社; 2005年12月20日.
    • FITやPST、臨床現場での具体的フレーズまで含めた「日本版フィードバック実務書」。
    • 「ほめると付け上がる」といった指導医側の心理的バリアにも触れ、FD研修用の素材としても有用です。(COIあり)
    • 残念ながらオンラインで読めませんが、次の文献にそのコンセプトの多くは引き継がれています。
  2. 西澤俊紀, 畑拓磨, 小杉俊介, 徳増一樹, 堀田亘馬, 長崎一哉. 9つの原則で学ぶ効果的なフィードバック. 週刊医学界新聞. 2023;(3529).
    • 全文を読むためにはIDの作成が必要です(無料です)
  3. 木村武司. 特選! 医学教育のエビデンス: フィードバック. 治療. 2026;108(1):18-24.
    • van de Ridder, Hattie & Timperley, Sargeant, Carless & Boud などの英語文献を、日本語でコンパクトに整理。
    • 本記事で挙げた多くのキーペーパーと整合的で、「おさらい」として読むのにちょうどよい分量です。
    • これもオンラインでは読めませんが、新しいので、みなさまの職場の本棚にあるはず!
    • 代替案として、オンラインで読める、木村武司. フィードバック 定義から近年の議論まで 医学教育2023,54(3): 255~265 がありますが、 3年でかなり記載内容がグレードアップしている印象ですので、「治療」をお勧めします。

まとめ:どう活かすか

  • 最初の研究が示すように、「フィードバックが重要なのに満たされない」というギャップは世界中で共有されています。(類似の研究は大量にあります)
  • 上の6本(あるいは10本)を順番に読み、
    • フィードバックの定義と原則
    • 失敗メカニズム(FIT)
    • 教育的同盟と信頼性
    • 自己評価・ISA・評価的判断
    • 学習者のフィードバック・リテラシー
    • フィードバック文化と評価制度
      を押さえれば、「駆け出し指導医」の段階でも理論的に裏づけられた実践ができるようになります。

あとは、岡田・西澤・木村の日本語ガイドをうまく組み合わせて、「自分の現場・自分の言葉」に翻訳していくことが、エキスパートへの最後の一歩です。


参考文献(出現順・AMA形式)

  1. Archer JC. State of the science in health professional education: effective feedback. Med Educ. 2010;44(1):101-108.pubmed.ncbi.nlm.nih+1
  2. van de Ridder JMM, Wetzels R, Stokking KM, ten Cate OTJ. Guidelines: the do’s, don’ts and don’t knows of feedback for clinical education. Perspect Med Educ. 2015;4(6):284-299.[pmc.ncbi.nlm.nih]​
  3. Kluger AN, DeNisi A. The effects of feedback interventions on performance: a historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory. Psychol Bull. 1996;119(2):254-284.[academia]​
  4. Telio S, Regehr G, Ajjawi R. Feedback and the educational alliance: examining credibility judgements and their consequences. Med Educ. 2016;50(9):933-942.[pubmed.ncbi.nlm.nih]​
  5. Carless D, Boud D. The development of student feedback literacy: enabling uptake of feedback. Assess Eval High Educ. 2018;43(8):1315-1325.opus.lib.uts+1
  6. Watling CJ, Ginsburg S. Assessment, feedback and the alchemy of learning. Med Educ. 2019;53(1):76-85.asmepublications.onlinelibrary.wiley+1
  7. Davis DA, Mazmanian PE, Fordis M, et al. Accuracy of physician self-assessment compared with observed measures of competence: a systematic review. JAMA. 2006;296(9):1094-1102.pmc.ncbi.nlm.nih+1
  8. Sargeant J, Armson H, Chesluk B, et al. The processes and dimensions of informed self-assessment: a conceptual model. Acad Med. 2010;85(7):1212-1220.[pmc.ncbi.nlm.nih]​
  9. Tai J, Ajjawi R, Boud D, Dawson P, Panadero E. Evaluative judgement: the development of student self-reliance in assessing the quality of work. High Educ. 2018;76(3):467-481.[vuir.vu.edu]​
  10. Ramani S, Könings KD, Ginsburg S, van der Vleuten CPM. Twelve tips to promote a feedback culture with a growth mind-set: swinging the feedback pendulum from recipes to relationships. Med Teach. 2019;41(6):625-631.

ここまで

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