スコットランドのGPに読まれた2025年発行の181本の論文

家庭医療

はじめに

AIの定期巡回が知らせてくれなければ、おそらく知り得ることのなかった情報源。General Practice Current Awareness Bulletin 2025 についての紹介。

2ヶ月に1回10ページ前後、20−30本の最新の論文が紹介される「国の」サービス。UKのGPは準国家公務員なので、その生涯学習、質の担保も国の責任としてされている、というのは羨ましい限りです。


General Practice Current Awareness Bulletinとは何か

この公報(Bulletin)は、スコットランドの国民保健サービス(NHS)の教育部門である NHS Education for Scotland (NES) が管理するプラットフォーム「The Knowledge Network」を通じて、NHS Ayrshire & Arran のライブラリーサービスが毎月発行しているもの

その主な目的は、現場のスタッフが「命を救うために時間を使えるよう、情報収集の時間を節約する(Saving you time so you can save lives)」とあります。

どのような観点で論文が選ばれているか

詳細は現在問い合わせ中ですが、下記ウェブサイトや毎回のpdfの最初に

The scope of this current awareness bulletin is to provide General Practice staff with an easy-to-read, succinct guide to the latest high level evidence, guidance and policy in their specialty area. We hope that by providing this bulletin we will be supporting our General Practitioners and practice staff with their continuing professional development.

とあり、この公報に収載される論文や報告書は、単なる最新情報ではなく、その号によって、多少重点領域が決められています。例えば10月号は

This monthly current awareness bulletin aims to highlight relevant reports and peer-reviewed literature in emergency and unscheduled care. The bulletin focuses on efforts to improve patient flow, reduce waiting times and alternative care models.

と、救急、予定外の診療に関して、患者導線、待ち時間の短縮、代替のケアモデルなどについて特集、と書いています。

原則その年に発行の最新論文に限定です。UK内の研究に限定しているわけではないですが、それが大半で、米国のものは圧倒的に少ない印象です。(そういう意味で、米国の論文を目にしやすい我々には補完的に使える)

どこにあるか(リンク)

最新の公報およびアーカイブは、以下のサイトからアクセス可能です。


毎号の本数と総数、ページ数

先述の通り、2ヶ月に1回の発行、掲載論文数とページ数は下記のとおり

  • 2025年2月号(28本掲載): およそ8〜9ページ
  • 2025年4月号(24本掲載): およそ7〜8ページ
  • 2025年6月号(33本掲載): 10ページ
  • 2025年8月号(32本掲載): およそ9〜10ページ
  • 2025年10月号(22本掲載): およそ6〜7ページ
  • 2025年12月号(42本掲載): およそ12〜13ページ
  • 合計:181本

実際の紙面

実際に上記リンクから見ていただくのが理想ですが、ランダムに1ページの半分程度を切り取った画像を貼っておきます。1つの論文に対してそれなりのボリュームのまとめがあります。基本著者名のアルファベット順です(これはテーマ別の方が良かったが、その労力はこちら側に委ねられたのでしょう)


内容のテーマ分析

ソースに含まれる全181本の論文をテーマ別に分析すると、以下の通りです。

  1. 労働力・採用・定着(35本): 医師不足、バーンアウト、代理医師の利用、研修医の確保。
  2. デジタルヘルス・AI(28本): リモート診療の影響、生成AIや診断支援ツールの受容性。
  3. メンタルヘルス管理(22本): 抗うつ薬の中止、ADHD支援、重篤な精神疾患へのアクセス。
  4. がんの早期診断(20本): スクリーニング、電子リスク評価ツール、紹介経路の不平等。
  5. 肥満管理とGLP-1受容体作動薬(18本): マンジャロ等の新薬管理、紹介経路、術後のフォローアップ。
  6. アクセスと患者満足度(18本): 予約の利便性、当日診療、満足度の低下傾向。
  7. 社会的処方と健康格差(16本): リンクワーカー、グリーン社会的処方、困窮地域へのリソース投入。
  8. 多職種連携(MDT)(14本): 薬剤師、理学療法士、看護師の役割拡大と課題。
  9. 感染症と抗菌薬(13本): 抗菌薬スチュワードシップ、呼吸器感染症、遅延処方。
  10. ケアの継続性(12本): 医師との長期的関係(リレーショナル・コンティニュイティ)の価値。

合計184本(重複カウントあり)

疾病各論が少ないのと(それは別途診療ガイドラインなどで担保するのでしょう)、Psycho(メンタルヘルス), Social(社会的処方、格差)などが結構な割合で含まれているのがプライマリ・ケアらしさを表しています。

GPがメンタルヘルス(メンタルイルネス、メンタルディジーズではなく、という表現の違いがとても重要です)を扱う頻度の多さは、大量の裏付けがあり、地域のよくあるお困りごとの大半を引き受けるためには、メンタルヘルスが扱えないと厳しいですよ、というのはあちこちでお話ししています。(以下参考)

河田祥吾. 岡田唯男. 高橋亮太. 鵜飼万実子. 総説 家庭医の専門医養成におけるメンタルヘルスの
competency に関する scoping review. 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 3, p. 116-127 Mental Health Competencies in Family Medicine Residency Training

Kawada, S, Moriya, J, Wakabayashi, H, Kise, M, Okada, T, Ie, K. Mental health training in family medicine residencies: International curriculum overview. (Special Article) J Gen Fam Med. 2023; 00: 1– 9.  

岡田唯男. トピックス I. 地域の健康を向上させる本物の「かかりつけ医」とは. 特集 内科医が「かかりつけ医」になるとき―変化する医療と内科医の責任. 日本内科学会誌. 2025;114(12):2222-2230(オンライン公開は一年後です)

JPCAのメンタルヘルス学習リソース

研究デザインによる分類(上位5件)

  1. 質的研究(インタビュー、フォーカスグループなど):約55本 医師や患者の「本音」を探る調査が非常に多く、複雑な現場の課題を浮かび上がらせています。
  2. 系統的・スコープ的レビュー:約35本 既存の研究を統合し、広範なエビデンスを提示する論文です。
  3. レトロスペクティブ・観察研究(EHRデータ分析など):約30本 電子カルテや処方データから、大規模な傾向を明らかにする量的調査です。
  4. 横断的調査(アンケート等):約25本 ある一時点での医師やスタッフの意識、慣行を調査したものです。
  5. 混合研究法(Mixed Methods):約15本 質的データと量的データを組み合わせた、より多角的な検証が行われています

上位5種で全体の約88%(160/181本)です


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スコットランドのGPは本当にこれを全部読んでいるのか?

まあそんなはずはなくて、A Iによるフェルミ推定では5~15%だろう、とのことです。

• 分母:GP 5,000人。
• 存在を知っている:30〜60% → 1,500〜3,000人
• 何らかの形で時々利用:15〜30% → 750〜1,500人
• 毎号ほぼ読むヘビーユーザー:5〜15% → 250〜750人

まとめ

ざっくりですが、2ヵ月で30本、1ヶ月で15本ですから、ちょっと多めかもしれませんが、そこから興味あるものだけを読むのならなんとか続けられるかもしれません。(しかし世の中情報量多すぎます。。)

研究のトレンドを知る、RQの着想を得る、という観点からも良いかもしれません。

あと、国がこういうことやってくれるといいのに!とは思います。学会は少しだけやってくれています

ここまで

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