はじめに
- 滅多に自施設や外部での講演、レクチャーを公開することはないのですが、今回たまたまzoomで逐語の議事録を取ったので、それをそのままClaudeに入れたら、綺麗に整形してくれました.それに目を通して、若干手を加えたものをそのままアップしています。
- 極めて基本的な内容しか話していませんので、特に専攻医以上の皆様にはあまり役に立たないかもしれません。
- 実際は90枚弱のスライドを使って話していますがそれは示していないので、画像や図表は含まれていません(1枚のみ提供しています)。また出典等についてもスライドでは示しましたがここでは紹介していませんので、その辺りはご容赦いただければと思います。(それをやろうとすると労力がかかりすぎて公開に至りません。Done is better than perfectということで)
本文
健康の社会的決定要因(SDH)レクチャー記録(90分)
(レジデントデイ オンライン開催) 2026/6/27
導入
今回は、当初予定していた「複雑系」のセッションを変更し、SDH(健康の社会的決定要因)をテーマにお話しします。複雑系のセッションは動画を多く使うため、オンライン開催では進行がもどかしくなることが予想されたため、急遽テーマを変更しました。SDHは2021年にも取り上げたテーマですが、その後も知見が蓄積されており、最新の情報も盛り込んだ内容となっています。
本日の目標は、次の3点です。第一に、SDHとは何かを説明できるようになること。第二に、なぜSDHが重要なのかを自分の言葉で語れること。そして第三に、SDHの取り扱い方、つまり臨床でどう扱えばよいかの糸口をつかむことです。「大事なのはわかる、でもどう扱えばいいのかわからない」という声をよく聞きますので、今日はその実践的な部分に重点を置いてお話しします。
なお、アドボカシーや地域志向型プライマリケアとの関連も深いテーマですが、それらについては少し触れる程度にとどめ、またSDHについてはミクロ・メゾ・マクロの視点が必要ですが。本日はミクロ・メゾレベルの実践を中心に扱い、マクロレベルの議論は割愛します。
推奨文献・学習リソース
日本プライマリ・ケア連合学会の健康の社会的決定要因検討委員会のウェブページには、重要な文献や情報がよくまとまっています。「プライマリ・ケア連合学会 SDH委員会」で検索すればたどり着けます。SDHについて何から勉強すればよいかわからないという方は、まずこのページを全部読むことをお勧めします。日本語で書かれており、我々学会員向けに整理された内容なので、入門として最適です。
また、関連書籍として以下の3冊を紹介します。ひとつは2019年発行の貧困対策をテーマにした書籍(「治療」特集号)で、介入方法や評価についても扱われています。次に、米国の教科書の日本語訳で、「Medical Management of Vulnerable and Underserved Patients」というタイトルのものです。近年は「Marginalized(社会的に周縁化された)」という表現も使われるようになっています。この教科書では、貧困・ホームレス・性の多様性・メンタルヘルス・暴力・アルコール・薬物・障害など、SDHに関わるテーマが各論として扱われています。そして、SDH委員会が日本独自に作成した教科書もあります。その第四章以降では、日本各地のメゾレベルの取り組みが数多く紹介されています。
SDHとは何か――自己責任論との対比
SDH(Social Determinants of Health:健康の社会的決定要因)の極めて重要な考えたかたは、健康が「個人では管理できない状況によって非常に強く影響を受けている」ということです。
この概念の対極にあるのが「自己責任論」です。たとえば、「透析になったのは血糖管理が悪かった患者自身の責任だ」「肺がんになったのはタバコを吸っていたからで自己責任だ」という考え方がそれにあたります。しかし、個人の努力や意識も大切ではあるものの、本人がコントロールできない要素の方が健康に与える影響として圧倒的に大きいというのが、SDHに基づく現在の考え方です。そのため、支援が必要とされます。
具体的な例を挙げましょう。所得が低い人ほど野菜の摂取量が少ない、最終学歴が低い人ほど検診受診率が低い、といったデータがあります。これを「野菜を食べないのは怠慢だから」「検診に行かないのは不勉強だから」と片付けるのは簡単ですが、乱暴な議論です。収入は自分で好んで低くしているわけではなく、大学に行けなかったのも家庭の事情があってのことかもしれません。そのような社会的な要因が、野菜摂取や検診受診といった健康に関わる行動に影響を与え、最終的に健康格差として現れてくるのです。
「生活習慣病」という言葉についても触れておきます。日野原先生がこの言葉を導入したことで、生活習慣の改善というメッセージが伝わりやすくなったという功の面があります。しかし一方で、「生活習慣の問題=自己責任」という受け取られ方を生んでしまうという罪の面もあります。こちらが意図しなくても患者さん自身が「これは自分の責任だ」と思い込んでしまうリスクがあるため、「生活習慣病」という言葉は安易に使わない方がよいかもしれません。
孤独・孤立という健康リスク
SDHのなかでも特に注目すべきは、孤独・孤立です。Holt-Lundstad氏らの研究によると、社会的孤立・精神的孤独は、1日15本の喫煙と同等かそれ以上の死亡リスクをもたらすとされています。過度の飲酒よりもリスクが高く、また、外来で「もう少し血圧を下げましょう」と薬を追加しようと交渉しているコントロール不良な高血圧患者と比較しても、孤独・孤立のほうが圧倒的に死亡リスクが高いというデータもあります。
この事実を受け、イギリスでは「孤独は1日15本の喫煙と同等の健康被害を与える」として「孤独担当大臣」を設置したことがあります(現在は担当大臣のポストはなくなっています)。さらに、孤独対策の省庁・部署を国として設けている国がもうひとつあります――それは日本です。2021年のコロナ禍でのステイホームによりソーシャルなつながりが急激に失われたことを契機に、内閣府に「孤独・孤立対策推進室」が設置されました。こうした取り組みは世界的にも珍しく、我々医療従事者として知っておくべき事実です。ただ、一般への認知度はまだ低く、取り組みとして十分に機能しているとは言い難い状況です。
SDHの構造――上流・中流・下流
SDHには「上流・中流・下流」という層構造があります。Dahlgren & Whiteheadのレインボーモデルが最もよく知られたSDHのモデルです。個人の健康行動(食習慣・運動・医療受診行動など)が最も個人に近い下流に位置し、その外側に中間的決定要因(住環境・職場環境・社会的ネットワークなど)、さらに外側に構造的決定要因(教育制度・経済的分配・政治など)があります。
重要なのは、最も上流にある構造的要因こそが最も根本的かつ影響の大きい部分であることです。しかし、変えることが最も難しいのもこの部分です。逆に下流の個人レベルの要因は研究しやすく、「このリスク因子があると死亡率が何倍」という数字も出やすいのですが、そこに介入するだけでは根本的な解決にはなりません。
SDHの構成要素としては、教育・就労・所得・住居・食の安全(フード・インセキュリティ)・経済的困窮(ファイナンシャル・インセキュリティ)・孤立・孤独・医療へのアクセス・子ども時代の逆境体験(ACEs)など、さまざまなものが含まれます。また、どこでどのような医療を受けるかという「医療へのアクセス」も、広義のSDHに含まれます。たとえば、経済的に困窮している地域で医療をやろうという医師や医療機関が多くない問題もあり、医療の質やアクセスそのものも社会的要因の影響を受けています。
また、教育・雇用・所得・社会的地位・社会的ネットワークはそれぞれが密接に絡み合っており、「貧困の再生産」という問題を生みます。経済的に厳しく親の学歴の低い家庭から、高等教育に進む子どもが出にくいという現実は根強く、健康格差の世代間連鎖につながっています。
なぜ医療、家庭医でSDHを扱うのか
健康への影響度が最も大きい
人々の健康に影響を与える要因の割合を考えると、遺伝的要因は約5%、食事・運動・喫煙などの健康行動は約20%、医療の質は10〜15%程度と言われています。そして、最も影響が大きいのが、社会経済的環境(SDH)で、約40%とされています。つまり、SDHこそが健康を規定する最大の要因なのです。
日々の外来でタバコをやめるよう指導したり、ガイドラインに基づいた治療を完璧に行ったとしても、SDHに対処しなければ健康への影響力はせいぜい全体の半分以下にしかなりません。最も影響の大きい要因を無視して、「common problem(よくある問題)のエキスパート」と名乗れるでしょうか。
「ジャクソン君」のたとえ話
SDHを考える上でよく引用される話があります。ジャクソン君という子どもが感染症で入院しています。足からばい菌が入ったのですが、なぜかというと公園ではなくガラクタ置き場で遊んでいたからです。なぜガラクタ置き場かというと、公園のある豊かな土地に住めないからです。なぜかというと、お父さんが無職でお母さんが病気だからです。なぜかというと、十分な教育を受けられなかったからです――。
「ジャクソン君はなぜ入院しているのか」という問いに対して、直接の原因は「感染症」ですが、その根本には連鎖する社会的要因があります。感染症を治療して退院させても、同じ環境に戻せば再び問題が起きます。第二・第三のジャクソン君が生まれ続けることにもなります。これが、SDH研究、格差医療の第一人者であるマーモット(Marmot)氏が問うた「なぜ人々を治療して、病気を生み出した原因であった環境にそのまま送り返すのか」という問いの意味です。
この点について、WHOは「健康を害する経験の不平等な分布(健康格差)は、自然発生現象とは言い難い。それは粗末な社会政策・不公平な経済的分配・悪い政治という〈毒性の組み合わせ(Toxic Combination)〉の結果である」と強い言葉で述べています。
家庭医療の専門性との関係
「コンテキストを踏まえた診療をする」と明示しているのは、診療科のなかで家庭医療のみです(ACGMEのプログラム整備基準による。内科・小児科等でもSDH・disparities について学ぶことは示されているが、family medicine だけが specialty 定義レベルで family・community connections を明示している)。SDHへの取り組みは、まさに我々家庭医の差別化の側面の一つです。また、医療の質を測る指標のひとつに「エクイティ(公平性)」があり、格差のない医療を目指すこともプロフェッショナリズムの観点から重要とされています。
さらに、SDHにしっかり取り組むことは、バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクと逆相関することが示されています。SDHを抱える複雑な患者に対応することは確かに大変ですが、それをただ「めんどくさい」と感じるままにするのではなく、SDHへの取り組みを組織として体制化することで、むしろバーンアウトしにくくなるのです。
家庭医がSDHに取り組むべき5つの理由(岡田. 2021)

臨床でどうSDHを扱うか――ミクロ・メゾレベルの実践
ミクロ- 個人の診療の中でできること
SDHに気づく:リスクファクターとして捉える
胸痛の患者に心血管リスク因子(喫煙・高血圧など)を聞くのは当然のことです。小児喘息の患者に受動喫煙の有無を聞くのも同様です。SDHも、生物学的リスク因子と同様に健康への大きなリスク因子として認識し、重要と判断できる場面ではアセスメントすることが求められます。
実際、SDHの要素を含めた方が心血管疾患による死亡リスクの予測精度が高まったという研究があります。追加した指標は、地域の高卒未満の割合、スーパーマーケットの数、ファーストフードの数、プライマリケア医の数など、その地域の社会環境を示すものです。
SDHへの介入を検討すべきサインとして、次のような患者像が挙げられます。来院しない、薬が大量に余っている、コントロールが悪い、逆に頻回に来院する、介護負担が大きい、住居問題がある、DVや虐待がある、孤立している、就労が困難である、訴えが多い、クレームが多い、などです。いわゆる「困った患者は困っている患者」という言葉の通り、こうした患者の背景にはSDHが絡んでいることが多くあります。
事例で考える:繰り返す心不全の80代独居患者
80代の独居の心不全患者が、繰り返し増悪して再入院を繰り返しているとします。服薬管理が不安定で食事も不十分、外出も困難な場合を考えてみましょう。ここに絡みうるSDHとして以下のようなものが想像されます。
・貧困:食べ物が十分に買えない
・孤立:日常生活の支援が得られない、ADLが低下しても助けを呼べない
・自暴自棄:生きていても仕方ないという気持ちがある
・低教育歴:塩分制限の重要性が理解できない
・楽しみのなさ:せめて好きな(塩分過多の)食事を楽しみたい
・移動手段の問題:公共交通機関が使えない、移動手段がない
再入院を「病状管理が悪かった」というだけで片付けるのではなく、「生活条件の破綻のサイン」として捉えることが大切です。SDHをプロブレムリストに項目として挙げるだけでなく、それが患者にとってどのような介在因子(メディエーター)となっているかを想像しながら問題の構造を理解することが重要です。
尋問しない・尋ねる・つなぐ・代弁する
「薬がなぜこんなに余っているのですか?」「なぜ血圧が下がらないのですか?」という責め立てる聞き方ではなく、「飲めない理由が何かありますか?」「背景に何か事情がありますか?」という聞き方をしましょう。場合によっては「経済的に大丈夫ですか?」「ちゃんと食べられていますか?」と直接的に聞くことも非常に重要です。こうした質問を医師からされることに多くの患者は感謝します。普通のお医者さんはそこまで気にしてくれないと感じているからです。
医師がすべてを解決する必要はありません。SDHが疑われる場合は、チームで共有し、多職種につなぐことが大切です。また、患者自身がどこに相談してよいかわからない場合には、医師がアドボケートとして代弁し、代わりに手紙を書いたりお願いをすることも重要な役割です。社会的に困難な立場にある方は「自分にはそんなことを頼む権利がない」「どうすれば・誰に頼めばいいかわからない」と思い込んでいることが多いため、こうした代弁が必要になります。
ソーシャルバイタルサインとスクリーニングツール
「ソーシャルバイタルサイン」と呼ばれる問診項目のセットを活用すると、SDHの主要な要素をもれなく評価できます。全患者に使う必要はありませんが、SDHが疑われる患者に対して活用することで、体系的なアセスメントが可能になります。一部の病院では、入院患者全員にこの項目を確認し、退院までに支援につなぐ取り組みをしているところもあります。
フード・インセキュリティ(食の不安)のスクリーニングには、次の2つの質問が有用とされています。「この1年間でお金が足りなくて食べ物がなくなるのではないかと心配になったことがありますか?」「この1年間でお金が足りなかったために食べ物がなくなってしまったことがありますか?」これらの質問は感度・特異度も比較的高く(感度95%・特異度82%)、臨床での利用に適しています。
ファイナンシャル・インセキュリティ(経済的困窮)については、「過去1か月間、家賃や光熱費などの支払いにどのくらい苦労しましたか?」「月末の支払いについて心配したことがありますか?」などの質問を用います。孤立については「同居していない家族や友人と、どのくらいの頻度で連絡を取りますか?」「孤独を感じることはどのくらいありますか?」などが有効です。
宇都宮医師会 社会支援部では、SDHアンケートとSDHチェックリストをウェブサイトで公開しており、誰でも利用できます。オンラインの問診システムで各項目を回答するとスパイダーチャートとして可視化・印刷できるものもあり、実用的です。
研究によれば、患者の約半数〜97%が何らかのSDHの項目に該当しますが、そのうち患者自身が困っていると申告するのは約5人に1人、実際に対応が行われるのはさらにその一部に過ぎません。まずは「関心を持つ」「気にする」ことが、第一歩として最も重要です。
平等と公平の違い
「平等(Equality)」と「公平(Equity)」の違いを理解することも重要です。野球の試合を3人が観ようとしているとき、全員に同じ高さの台を与えることは「平等」ですが、背が低くて見えない人には台を多く与えて全員が見えるようにすることが「公平」です。
東日本大震災の避難所で、感覚過敏のある子どもが特定のコンビニのおにぎりしか食べられないとき、「他の人と同じものを食べなさい」というのは平等ですが公平ではありません。赤ちゃんにも、子供にも平等に飴玉、ではなく、赤ちゃんにはミルク、大きな子供には飴玉を提供することが公平な支援です。SDHへの対応においても、貧困など社会的に不利な人々には配慮を強め、必要な支援を必要な量だけ提供する(多く必要な人には多く)という考え方が基本です。
メゾレベルの取り組み――チームと組織として
個人の関心と努力だけに頼るのではなく、組織的な仕組みとしてSDHに取り組むことが重要です。具体的には次のような取り組みが挙げられます。院内での困難事例の共有、地域の社会資源リストの整備、貧困・孤立などのSDHが疑われる場合の相談フロー(誰に相談するか)の作成などです。これは疾患のガイドラインや手順書と同様に、標準化・文書化しておくことが望ましいです。
実際の取り組み例として、広島のクリニックでは、コスト度外視でインフルエンザ予防接種の自己負担を極限まで引き下げることで、「高いから行かない」と諦めていた層も接種に来られるようにし、そこで他の相談にもつなげる機会を作っています。また、安房地域医療センターが実施している無料低額診療も、SDHへの重要な取り組みです。
リンクワーカーやソーシャルワーカーの活用も有効です。リンクワーカーとは、患者と地域の社会資源をつなぐ専門職のことで、英国を中心に普及しています。リンクワーカーの有効性のエビデンスはまだ成熟していませんが、だからといってやらないという判断にはなりません。
質疑応答
Q. どのように地域での支援リソースを把握していけば良いか
(A)地域の社会資源を把握するためには、その地域で長く働いている看護師や、行政の福祉課、地域包括支援センターなどに話を聞くことが近道です。新しい地域に移った場合は、ゼロから聞いて回るしかありませんが、地道にリソースを積み上げていくことが大切です。また、複数の医師が頭の中に持っているその地域の「暗黙知」を、文字化・マニュアル化して「形式知」として共有することも重要です。たとえば、各スタッフが持つ知識をデータベースに蓄積し、「この問題で困っている患者がいる」と入力すると該当するリソース一覧が出てくるようなAIツールも活用できる可能性があります。
Q. 円グラフの「社会が規定する健康」とは何を指しているか
(A)スライドに示した円グラフは厳密な研究結果ではなく、イメージ図として考えてください。より正確なのは引用した論文のほうで、寿命とQOL両方について、各要因の寄与割合をシステマティックレビューで統合したものです。SDHの部分は約40%、医療の質は15%程度、健康行動は20%程度と考えられています。医療へのアクセスも広義のSDHに含まれます。
Q. SDHの研究論文を読む際に注意すべき点は何か
(A)単独のSDH因子と特定のアウトカム(入院期間・入院頻度・死亡率など)との関連を調べる研究は公衆衛生分野で多く行われており、通常の疫学論文と同様に評価できます。喫煙と疾患リスクを調べるのと同じような手法です。注意が必要なのは、「SDHが健康に与える影響全体の比重」を測ろうとする研究で、これは他のバイオロジカルな因子でも同様に難しいです。また、SDHの各因子は相互に絡み合っているため(複雑系)、一つひとつに切り分けることにそもそも限界があります。複雑系を記述する研究手法そのものがまだ成熟していない段階にあるため、古典的な疫学研究では測定しきれない部分があることを念頭に置いてください。
Q. SDHの重要性について確信を持てない場合、どう考えればよいか
(A)「医学的な治療の方が寿命を延ばせるのではないか、役に立てるのではないか」という考えは理解できます。しかし、それはM. Marmotの発言やレインボーモデルに裏付けられるように、下流の表面的な対応であって、その場の解決にはつながるが、問題の先送りにしかならないことも多いです。また、SDHの重要性が認識できない医師は多く、その背景には、「努力すれば報われる」という公正世界仮説が根強くあります。医師は受験戦争を勝ち抜いてきた人間が多く、この仮説にとらわれやすい職種です。その裏返しとして、「努力しない人は報われなくて当然」という自己責任論にも傾きやすいのです。
SDHの重要性に確信を持てないと感じる方は、岡田の「予防医療の羅針盤」という書籍に「なぜ自己責任論ではダメなのか」という問いに対するQ&A(5〜6の観点から回答)を掲載しているのでぜひ読んでみてください。
おわりに
SDHは、健康への影響が最も大きい「コモン(よくある)な」原因です。コモンな問題を扱うプロフェッショナルとして、それを無視することは道理が通りません。我々はBPS(Bio-Psycho-Social)モデルを掲げますが、健康への影響の大きさで言えば実はSが一番重要です。
0か100かで考えるのではなく、できることから少しずつ始めることが大切です。まず「気にかける」こと、そして「つなぐ」こと、さらには「仕組みをつくる」こと。これらが積み重なって、SDHに取り組む文化が醸成されていきます。本講演がその一助となれば幸いです。
(ここまで)

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