よい父、困った父、父ではないのに父のような人。物語のなかに、家族のさまざまなかたちを探す。
実は映画やドラマが好きで、年間に40−50作品(連ドラの場合は全ての回を見て1作品とカウント)観ており、タイミングや状況が合えば、同僚や後輩へのメンタリング、ひいては患者さんに映画ソムリエとして作品の紹介をすることもあります。
そんな私が、10年ほど前に、趣味が高じて映画を紹介するコラムを依頼されたことがありました。
注意
本エントリーは2017年の
岡田唯男. コラム:お父さんを「観よう」―お父さんを診よう番外編―. In: 特集 お父さんを診よう. 治療. 2017;99(9):1205-1207.
の執筆で紹介した映画の紹介です。それ以降の映画については考慮されていませんし、全ての映画を見た上での選出ではなく、独断と偏見に基づくものです。
紹介文や、前後の文章は新たに書き下ろしています。当時の執筆から以下の部分だけ抜き出して紹介しておきます
父、父性を語るうえで、その象徴とされるキリスト教における神とその子(ひと)の関係は無視できません。放蕩息子のたとえ話や、カイン・コンプレックスなどが題材となっている映画も多いですし、「父親殺し」についてはエディプス・コンプレックスとも関連があるため、それらの概念もぜひ押さえておきたいところです。
はじめに
「父親の映画」と聞いて、どの作品を思い浮かべるだろうか。
子どものために懸命に生きる父。失敗を重ねながら、少しずつ父親になっていく人。あるいは、子どもを傷つけ、長くその人生に影を落とす父もいる。
映画に描かれる父親は、理想的な人物ばかりではない。だからこそ、心に残るのかもしれない。
そして、子どもを支え、守り、成長を見届ける役割は、必ずしも実の父親だけが担うものではない。本記事では、そのような関わりを広く「父性」と捉えたい。男性だけに備わる性質でも、父親にしか果たせない役割でもない。
今回は、父親と父性を入り口に、21作品と、番外編として5つの人気シリーズを紹介する。感動したいときにも、家族との関係を考えたいときにも、その日の気分に合う一本を見つけてほしい。
家庭医をやる上で、家族力動(family dynamics)についてのアセスメントは頻繁に行なっています。そのためには、仮説が必要で、多くの仮説が建てられるためにはたくさんの類型を知っている必要があります(「鑑別に上がらない病名は診断できない」というクリニカルパールがありますね)
映画クリップを用いた教育cinemeducationについてはこちら

※物語の核心に触れるネタバレはできるだけ避けています。一部には暴力や虐待など、つらい描写を含む作品があリます。
まずはここから。「父親の映画」の定番6作品
父親をテーマに映画を選ぶなら、まず挙げたい作品群である。
最初から子どもへの愛情を示す父もいれば、うまく関われなかったところから変わっていく父もいる。共通しているのは、「父親であること」が肩書きではなく、子どもとの関係のなかで問われる点である。
『アイ・アム・サム』
I Am Sam/2001年/アメリカ
親としての力を、何によって判断するのか。子どもを愛する気持ちと、子どもを育てるために必要な支えを、どう考えるのか。
「よい父親」の条件を、簡単には言い切れなくなる一本である。父親個人の能力だけではなく、親子を支える周囲のあり方にも目を向けたい。cinemeducationでも頻繁に紹介する1本です。

『幸せのちから』
The Pursuit of Happyness/2006年/アメリカ
子どもを守りたいという思いが、人を前へ進ませる。その一方で、思いだけでは乗り越えられない現実もある。
父親の努力に心を動かされながら、「家族を支えるとは何か」を考えたい作品である。
『ミセス・ダウト』
Mrs. Doubtfire/1993年/アメリカ
子どもと一緒にいたいという気持ちは、どこまで理解できるだろうか。そして、その気持ちが強ければ、どのような行動も許されるのだろうか。
笑いながら楽しめる一方で、父親としての愛情と、大人としての責任を分けて考えたくなる一本である。
『そして父になる』
2013年/日本
「母親は妊娠をきっかけに母親になり始める。一方、父親は子どもとの関わりの中で、少しずつ父親になっていく。」という言葉があります
父と子の関係をつくるのは、血のつながりなのか。それとも、一緒に過ごした時間なのか。
タイトルにある「なる」という言葉が印象深い。父親とは、ある日突然完成する存在ではなく、関わりのなかで少しずつ変わっていく存在なのかもしれない。
『リアル・スティール』
Real Steel/2011年/アメリカ
父親として不完全な人物が、子どもとの関係を通じて変化していく。その過程を楽しみたいときに選びたい作品である。
最初から立派でなくても、関係を築き直すことはできるのか。迫力ある娯楽作品として楽しみながら、そんな問いにも触れられる。
『ライフ・イズ・ビューティフル』
La vita è bella/1997年/イタリア
子どもを守るとは、身体の安全だけを守ることなのか。恐怖に満ちた状況で、子どもが世界をどう受け止めるかを支えることも、親の役割なのかもしれない。
厳しい状況における父の愛を描く作品として、挙げておきたい一本である。軽い気持ちで観られる映画ではないが、深く心に残る。
父性は、実の父親だけのものではない
守ること、導くこと、信じて待つこと。
こうした役割は、父親以外の人物が担うこともある。「誰が父親か」から少し離れ、「誰がどのように人を支えるのか」という視点で観たい3作品である。
『ファインディング・ニモ』
Finding Nemo/2003年/アメリカ
子どもを守りたい気持ちと、子どもの力を信じることは、ときにぶつかり合う。
親の愛情を「守る」だけで捉えず、「任せる」「見送る」という方向からも考えたい一本である。子どもと一緒に観ると、大人と子どもで印象に残る場面が違うかもしれない。
『コーチ・カーター』
Coach Carter/2005年/アメリカ
目の前の成果だけではなく、その人の将来に責任を持とうとする関わりを、どう受け止めるか。
父性を考える対象は、家庭のなかに限られない。指導者の厳しさと支援の関係についても考えたくなる作品である。
『マイ・インターン』
The Intern/2015年/アメリカ
人を支えるために、いつも前に立って指示する必要はない。経験を押しつけず、相手を尊重しながらそばにいる。それもまた、一つの支え方である。
血縁でも親子でもない関係のなかに、「父のような存在」を見いだす読み方ができる一本である。
「よい父親」だけでは語れない——支配と傷を見つめる3作品
父親との関係が、安心や成長の土台になるとは限らない。
期待が重圧になり、指導が支配になり、家族という関係が逃げにくさを生むこともある。ここでは、父親そのものだけでなく、「父のような権威」が人に及ぼす影響も含めて考えたい。
※暴力、威圧、虐待的な関わりなど、鑑賞がつらく感じられる描写を含見える。無理をして観る必要はない。
『アマデウス』
Amadeus/1984年/アメリカ
才能や評価をめぐる物語としてだけでなく、父という存在が心のなかに残り続ける物語として観るのも興味深い。
目の前にいない相手の期待や評価が、なお自分を縛る。「父の影」という視点を置くと、作品の見え方が変わってくる。
『セッション』
Whiplash/2014年/アメリカ
ここで注目したいのは、実の父親だけでなく、指導者という強い権威との関係である。
成長を求める厳しさと、人を傷つける支配の境界はどこにあるのか。成果が出れば、その過程は正当化されるのか。観終えたあとも、すっきりとした答えの出ない作品である。
前述の『コーチ・カーター』と合わせて観ると良い対比になると思います。
『血と骨』
2004年/日本
父親が家族を守る存在ではなく、恐怖や支配の源になる。そのような家族の姿と向き合う、重い一本である。
父親を無条件に美化せず、家族という関係の厳しさを見つめたいときの作品である。ただし、暴力的な描写には十分注意したい。観るのは結構大変ですが、当時の韓国人男性の家長、父としての比較的ステレオタイプを見ることができる。
「父親とは何か」を揺さぶる、さまざまな父の物語
映画の魅力の一つは、現実では出会いにくい状況を、具体的な人間の物語として経験できることである。
父が何人もいたらどうなるのか。血縁がなくても親子になれるのか。子どもへの愛情から行ったことが、社会のルールに反していたらどう評価するのか。
ここからは、父親という言葉の意味を広げてくれる5作品を紹介する。
『ビッグ・フィッシュ』
Big Fish/2003年/アメリカ
話に尾ひれをつけ、なかなか本当のことを語らない父。その語りのなかに、どのような真実があるのだろうか。
事実として正確であることと、一人の人間を理解することは、必ずしも同じではない。父の人生を、子どもがどう受け取り直すのかに注目したい。
『人生、ブラボー!』
Starbuck/2011年/カナダ・フランス語
ある日、自分が500人以上の子どもの父親だと知ったら——。
途方もない設定だが、そこから浮かび上がる問いは身近である。生物学的なつながりがあれば父親なのか。関わろうとするとき、どのような責任や喜びが生まれるのか。
父親という役割を、少し違う角度から眺められる作品である。コメディタッチなので気楽に見れると思います。
『オー!ファーザー』
2014年/日本
4人の父親に愛されるとは、どのようなことだろうか。
父親が一人で、あらゆる役割を完璧に担う必要はあるのか。それぞれに異なる大人が関わることで、子どもの世界はどう広がるのか。ユニークな設定を通じて、家族のかたちを考えたい一本である。
『チョコレートドーナツ』
Any Day Now/2012年/アメリカ
父親が父性を、母親が母性を担う。そうした役割分担を当然のものと考えてよいのだろうか。
大切なのは、誰がどの役割に当てはまるかではなく、誰がその子を大切にし、生活をともにしようとするかではないか。家族を外側から定義することと、内側で生きることの隔たりを考えさせられる。
『ジョンQ―最後の決断―』
John Q/2002年/アメリカ
子どもを救おうとする父の行動を、どう評価するか。
子どもへの愛情が理解できることと、その手段を肯定できることは別である。「よい父親か、悪い父親か」という二択では捉えきれない。医療制度や、家族が追い詰められる状況にも目を向けたくなる作品である。当時かなり話題になった映画です。不正とは異なる観点からもいろいろ見所があります。
父から娘へ——世代交代を見つめる2作品
子どもを育てることは、いつか自分から離れていく人を育てることでもある。
父親が何を残し、何を手放すのか。趣の大きく異なる2作品を、この視点で並べてみたい。
『秋刀魚の味』
1962年/日本
娘の人生と、父自身の人生。家族のかたちが変わるとき、その変化をどう受け入れるのか。
大きな出来事だけでなく、日常の会話や沈黙から、父と娘の距離を味わいたい作品である。
『LOGAN/ローガン』
Logan/2017年/アメリカ
ヒーローの物語を、次の世代へ何を渡すのかという物語として観る一本である。
守ることと、託すこと。父性という視点を置くと、強さの意味も違って見えてくる。暴力的な描写があるため、家族向けの穏やかな作品を求める場合には注意したい。
父性や母性の区別を越えて、家族の愛を考える
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
Extremely Loud & Incredibly Close/2011年/アメリカ
父性か、母性か。そんな分類よりも、喪失のなかにいる人に、誰がどのように寄り添うのかが心に残る作品である。
少年の不安や生きづらさに目を向けながら、その経験を周囲の人々がどう受け止めるかを考えたい。登場人物を診断名で説明しきるのではなく、一人の子どもが世界をどう感じているのかに注目したい一本である。 図らずも号泣してしまった作品。。
父親や夫という役割から、少し離れて
『マイレージ、マイライフ』
Up in the Air/2009年/アメリカ
家族をテーマにした映画を並べてきたが、人の人生は、親や配偶者という役割だけで尽くされるものではない。
誰かとつながること。自由でいること。恋をすること。一人の人間として、何を大切にして生きるのか。
ここでは「父親映画」の中心から少し離れ、親密さや自分の生き方を考えるための一本として挙げたい。
番外編——ヒーロー映画を「父との関係」から観る
壮大な冒険や戦いの物語にも、父親との関係を読み解く楽しみがある。
父の期待に応えようとするのか。父に反発するのか。父の不在を抱えて生きるのか。ここでいう父には、実の父だけでなく、養父や父のような役割を果たす人物も含まれる。
『スター・ウォーズ』シリーズ
世代を越える物語を、父と子の関係からたどる楽しみがある。何を受け継ぎ、何を受け継がないと決めるのか、という視点で観たい。
『インディ・ジョーンズ』シリーズ
冒険の魅力に加え、父と息子の距離に注目するのも面白い。父親の前では、どれほど大人になっても「息子」に戻るのかもしれない。
『アイアンマン』シリーズ
父から受け継いだものを、自分の人生のなかでどう扱うか。主人公の選択を、父との関係から読み直してみたい。
『マイティ・ソー』シリーズ
父の期待と、自分自身のあり方は一致するとは限らない。家族のなかの立場と、自分で選ぶ生き方の関係に注目したい。
『バットマン』シリーズ
父の不在や、父に代わって支える存在を意識すると、ヒーローの孤独や行動にも別の意味が見えてくる。
同じシリーズでも、作品や描き手によって家族関係の扱いは異なる。まずは好きな一本を、「この人物にとって、父とはどのような存在か」という問いとともに観直すのもよいだろう。
おわりに——分析してもよい。ただ、楽しんでもよい
父親を描く映画を並べてみると、「よい父親」の姿が一つではないことに気づく。
守る父。変わろうとする父。手放す父。傷を残す父。そして、父親ではないのに、誰かの人生を支える人。
映画を通して考えたいのは、父親の採点ではなく、関係性なのだと思う。その人が何をし、相手がどう受け止め、二人のあいだで何が変わったのか。そこに目を向けると、見慣れた作品にも別の表情が現れる。
とはいえ、映画はまず娯楽である。毎回、家族論を考えながら観る必要はない。
笑って、泣いて、興奮して、ただ楽しむ。そのあとで、ふと自分の家族や、大切な誰かを思い出す。そんな観方も、十分に豊かである。
あなたにとって、「父親の映画」といえば、どの一本だろうか。
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ここまで—–




















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